今日は特別な夜だから。
彼女はそう言って微笑んだ。だがその笑みに優しさは微塵も感じ取れず、薄気味悪さを感じた。
彼女特性の皿が目の前に出される度に、僕の鼓動は速くなる。至ってシンプルな料理が大きな皿に小さく乗せられている。これだけ見ると、まるでどこかの高級レストランの一品みたいだった。ただ、どうしてもそれを食す気にはなれなかった。
彼女は鼻歌混じりで席につき、じゃああたしもいただきましょうか、とナイフとフォークを持つ。豪快にフォークを突き刺し、ナイフで千切る。それから美味しそうに食す。ぐちゃぐちゃと奇怪な咀嚼音をたてながら。
今日は特別な夜だから。
彼女はまたそう言ってワインを取り出した。真紅のワインだった。彼女は器用にグラスに注ぎ入れて片方を僕に渡す。
さぁ、乾杯しましょ、特別な夜に。
彼女に促されるまま、僕はグラスを持つ。
静寂のうちに、チリン、と高い音がした。
彼女はそれもまた美味しそうに口に含む。それから、僕の方を心配そうに見やる。
どうしたの?具合悪いの?ねぇ。
僕は、そんなことないよ、と気丈に振る舞ってみせる。彼女は、なーんだ、とまた笑って告げた。
今日は特別な夜だもの。まだまだ、続けましょうね。
邪悪な微笑み。あぁ、この顔を何度見たことだろう。僕は、この顔と、何度こうやって、特別な夜を過ごしたことだろう。
特別な夜とは何なのか。僕もまだ分からないでいる。気味悪い儀式めいた食事を、いつの頃からか毎夜、彼女と続けている。どうしてかは分からないけれど、僕はもう逃れられない、それだけは分かっている。
テーブルクロスに描かれた五芒星を恨めしく見つめながら、僕は今日も、味のしない料理を食す。
1/22/2024, 1:43:37 AM