『"I love you."が言えなくて』
君の瞳に映るのは、いつだって僕じゃなかった。何度も失恋した。いい加減諦めようと思う度、僕はまた君に恋をした。不毛な恋だった。
小説やマンガ、ドラマに映画。幼馴染同士の恋なんて、そこら中に溢れている。もちろん、作り話が前提だけど。現実で幼馴染といったって、そんなに素敵なものじゃない。確かに幼い頃は毎日のように遊んでいたけど、それだって長くは続かない。中学生にもなれば、中途半端に性を意識し出して疎遠になって、大抵そのまま。朝起こしに来てくれるなんて、都合の良い妄想は所詮フィクションの中だけだ。現実ではまあ、会えば適当に挨拶するくらい。向こうはきっと、僕の気持ちすら知らないだろう。ちっちゃい頃は結婚の約束までしたのにな、なんて、冗談キツイか。
僕が最初に失恋したのは、中学二年の春だった。君が部活の先輩と付き合い始めたと、クラスの女子が噂話をしているのを聞いた。僕が君への恋を自覚したのは、悲しいことにその時だった。気付いたと同時に終わった恋は、まあ、結構痛かった。
僕が二度目の恋をしたのは、中学二年の秋だった。公園で泣いてる君を見た。その横顔がどうにも美しくて、僕は恋心を捨て切れずにいたことを悟った。声をかけるほどの勇気はなくて、気づかないフリで立ち去った。その後、君が先輩に振られたことを知った。中学生にありがちな、数ヶ月の恋だったらしい。君があんなに綺麗な涙を向ける、先輩とやらを僕は妬んだ。
僕が二度目の失恋をしたのは、中学三年の冬だった。校舎裏で告白なんて、ベタな場面を目撃した。恥ずかしそうに頬を染めて、頷く君に失恋を悟った。教室で彼氏と勉強する君を何度か見かけた。胸の奥がチクリと痛んだ。僕は辛い気持ちを紛らわせるように勉強をして、県で一番の進学校に合格した。
僕が三度目の恋をしたのは、高校二年の夏だった。受験を見据えて参加した、塾の夏期講習に君がいた。久々に顔を合わせて、少し話した。やっぱり好きだと思った。何度も顔を合わせるうちに、ほんの少しだけ昔に戻ったみたいだった。話の流れで、彼氏とはとっくに別れたと聞いた。別の高校に進学したから、あまり長続きしなかったと笑っていた。
僕が三度目の失恋をしたのは、高校二年の秋だった。夏期講習以降、同じ塾に通うようになった君は、塾講バイトの大学生に恋をした。相談された訳じゃなかったけど、君を見ていればすぐに分かった。受験に向けたクラス別授業になってから君に会う頻度は減ったけど、たまに見る、君が例の大学生に向ける瞳は、僕の胸を酷く刺した。結局、君の恋が実ることはなかった。例の大学生には彼女がいたらしい。
想うだけで気持ちを伝えもしない僕が失恋を嘆くのも、よく考えればおかしな話だ。現実とフィクションの違いがどうのと語るより、少しは君にアピールでもするべきだなんてことは、とっくのとうに分かっている。公園で泣いている君を見かけた時も、夏期講習で毎日隣で授業を受けていた時も、行動しなかったのは僕だった。だからいつまでも君との距離は縮まらない訳だけれど、「好き」の気持ちを表現するのは、臆病な僕にはとてつもなく勇気のいることで。かれこれ六年想い続けているのも、よく考えれば重すぎる。告白して断られれば、今の薄い繋がりも立ち消えてしまうかもしれない。考えれば考えるほど、土壺に嵌まって抜け出せなくなる。結局、あと一歩を踏み出せないまま。かと言って好きな気持ちを手放すのを許してくれるほど、アフロディーテは甘くなかった。
四度目の恋は、多分訪れる。相手はきっと君だろう。どうせ逃げられないことは分かりきっているのに、悶々とした気持ちをひとまず押しやって蓋をして、僕は今日もまた見ないフリをし続けている。
1/29/2023, 4:12:17 PM