「だーかーら!病院行きなって何回言わせんの!?」
「ごめんって……でもほら……お前さえ居ればいいわけだし……」
口籠りながらも確固たる意志を持った声で、彼は言った。
目の前の頑固な幼馴染は、不眠症を発症したのに、頑なに受診を拒む。おまけに、何故か僕が添い寝すると眠れるからとここ最近は抱き枕にされている。
彼は在宅勤務で引きこもっている僕と違って、学生時代は運動部、現在進行系でジム通いを続けているせいか、程よく筋肉の付いた、バランスのいい肉体美の持ち主。そんな彼にヒョロガリ貧弱の僕が敵うわけもなく、今日までダラダラと断りきれずにいたのだ。
しかし、いい加減限界である。彼は力が強い上、寝相なのか何なのか、やたら強く抱き締めてくる。眠っていても息苦しさで目覚めてしまうほど圧迫されるので、今度は僕が不眠症になりつつあった。
「とにかく!今日は一緒に寝ない!帰る!」
叱られた犬のような目をした彼に若干後ろ髪を引かれつつ、それでもなんとか強い心を持って言い切った。
「だめか……?頼む……お前が居ないとだめなんだ……」
珍しくうるりとした目で見つめられ、僕は喉から妙な音が漏れるのを感じた。ああ、だめだ。また流されてしまう。
「……………………今日、だけ……そう、今日だけだから……!」
ぱあ、と途端に明るくなった彼の顔に、もう苦笑しか出なかった。
夜、彼の腕の中に収まって横たわる。ふかふかとしたマットレスはたぶん高いやつで、本気で不眠に悩んでいたのだろうことが窺える。
僕より温かな体温と、静かに響く心音に、とろりとした眠気が頭を満たし始めた。
眠気でぐずぐずの頭は、ネガティブな方にどんどん引きずられていく。
彼が一人で眠れるようになった時、僕は用済みになるのだろうか。散らかった部屋、冷えたぺたんこのマットレスの上で、一人で眠る日が来るのだろうか。
隣で寝息を立てる彼の体温と心音は、どうしようもないほど僕を安心させる。それなのに、その体温が、心音が、僕の未来への不安を増幅させてやまない。
このぐちゃぐちゃの情緒をどうする事も出来ない僕は、早く忘れようと、さっきよりもずっと強く目を瞑った。
テーマ:安心と不安
1/26/2026, 7:53:50 AM