NoName

Open App

『声が枯れるまで』



これは、一人の神様と一人の青年の話。



__遠い遠い、昔。

「~~♪」
なんてことないラブソングを歌う俺。
『やっぱり、上手いな……俺もそんな風に歌えるようになりたいや。』
お前の羨ましい眼差しが、とても嬉しかった。
憧れられていることが嬉しかった。
それよりも、お前が聞いてくれてる事が嬉しかった。
昔からこうやって好き勝手歌ってたが、お前のような奴は初めてだった。


それの1ヶ月くらい前。
出会いは、本当に突然だった。


「ーー……」
樹林の奥で、今よりも感情を出さずに歌っている時。

『……!誰か、ここにいるのか……?あ!』
アイツは、道路がある方の木々を掻き分けてその姿を見せた。
「……!?……お前、俺が見えてんのか。」
『……?』
「いきなり言われても分からねぇよな。所謂『神様』って所だ。ほら、触れてみろ。」
アイツは俺の手に触れようとする。

『……触れない?』

だが、アイツの手は、俺の手に触れることもなく、そのまますり抜けた。
『……そんなこと、あるわ、け……』
アイツの手は、俺の首に触れようとする。
だが、またしてもすり抜ける。
「それがあるんだよ。俺は『声の神様』って所じゃねぇか?」
『……本当にあるんだな、こんなの。』


ずっとずっと、ここで孤独に歌っていた。
誰も俺に気付きなんてしなかった。
気づけば、辺りに建物が建っていた。


それでも、俺の周りには誰も居なかった。


『……触れる。』
「神様だからな。お前が俺に触れられるようにするのなんか、簡単だ。」


冷めた瞳をしたお前の手は、とても暖かかった。


お前は段々老けていく。
そしてじきに居なくなる。


……お前が居なくなってから、何千年が経ったのだろうか。


「~~~~」


お前が教えてくれたラブソングを歌う。
お前が教えてくれた暖かさを思い出す。
お前が教えてくれた寂しさを酷く感じる。


決して枯れることはない声で歌う。
この世に居ない人に対する、愛の歌を。

10/21/2023, 1:24:17 PM