うちには我儘な鏡がある。
その名も、美の鏡(ビュティリア)。美しいものしか映そうとしない、変わった鏡型の魔工知能だ。
そのため、
「おはよ-ビュティリア……寝癖直したいから映して……」
このように言っても、私の姿は映してもらえない。ついでに無造作に布団を放って乱れたベッドも彼女には不満なようで、鏡の中の部屋からベッドが消えていた。
「髪直せばいいんでしょ!?もー」
私は鏡なしで髪を整え、着替えて、映りの悪い鏡に向かってポーズする。
「どう?可愛い?」
そのうち、痺れを切らした彼女は私の姿を映してくれた。
「おお……いい感じ」
「お早う御座います」
もう朝ごはんの時間だったようで、ユトが入ってきた。
「美の鏡に映っていますね、良し。よかったですね美の鏡があって。ムル様が自分で身なりを整えてくれますから」
「そうだろうけど、ビュティリア厳しすぎるって。寝起きの私も可愛いでしょ……」
そう言うと何故か私の姿が鏡から消えた。
「えっなんでよ」
「ナルシストは美しくないんじゃないですか?何言っても顔がいいだけで許されんのは俺くらいのもんだからな」
「……」
そう言うユトの姿はずっとビュティリアに映ったままで。
解せぬ。
11/3/2024, 10:25:53 AM