NoName

Open App

太陽が、近づいているらしい。

「なんで?」

ここ数ヶ月で何処からともなく現れた噂は、今朝のニュースにもなっていた。何処かの専門家が小難しいことを言っていたが、僕の頭には入らなかった。親に聞いても、先生に聞いても皆、「わからない」と、つまらないことを相手にするようにあっさりと返した。

「何言ってるの、全部嘘さ。子供を騙して怖がらせてるの。だってありえないことでしょ? だから大人は信じてない」
「テレビも嘘をつくわけ? それに怖がらせて、それで、なんの意味があるの」

学校横の公園で、コンクリートの土管の上に友達と座る。空一面がどんよりとした曇り空だからか、昨日よりも涼しかった。友達はクスクス笑って、足をバタバタさせた。

「みんなにかまって欲しいからに決まってる! テレビだってオレらとおんなじ人間が作ってるんだよ。嘘ぐらいつくさ。太陽が落ちてこなければ奇跡にして、怖がらせてごめんなさいって、謝ればいいんだ」
「意味がわからない。暑さに頭をやられたの?」
「ふん、子供だなァ」

ニヤニヤ。僕が冷めた目で返しても、友達のテンションは変わらない。捻くれ者の頭の中では大人や政治家は絶対的悪らしい。そして、それを理解できないのは子供。なら、いつまでも子供のままで構わない。

「暑さにやられたついでにさ。今なら何やっても許されるかも。だって、皆が正しければ数秒後にオレら死ぬんでしょ」
「余計馬鹿の妄想になってるよ。誰も信じてないんなら、そんなの言い訳にならないし。あぁ、もう暑い。頭が回らない」

結局、皆が平気で嘘を吐くから、何も信じられなかったんだろう。どれもこれも暑さのせいだ。暑さが人を馬鹿にしたんだ。もう戻らないなら、いっそ終わりにして欲しい。

8/7/2023, 9:04:03 AM