私は怪盗に向いてない。
手先は器用ではないし、身のこなしも軽くない。
洒落たことを言うのも、派手な動きも下手くそだ。
器用なのは口先だけで、華やかさに欠ける。
それが私だった。
会社経営のアドバイザーとして繁栄している我が家。
しかし、その正体は裏で代々、義賊として活躍している、知る人ぞ知る世直しのために悪党から宝を盗み出す怪盗一家だ。
私の父と母も、その裏では、息のあったタッグの怪盗だった。
私は、表向きの家業、すなわちアドバイザーとしての能力には長けていたけれども、怪盗業についてとなるとさっぱりだった。
両親は私に怪盗としてやっていくためのあらゆる訓練をつけてくれたけど、そのどれもが無意味だった。
けれど、私たち一家が怪盗を辞めることは不可能だった。
理由は私たち一家の秘密にある。
怪盗の才能が開花しないまま、自分でも諦めの気持ちで私が十五になった日、父が我が家の繁栄の秘密について教えてくれた。
その昔、私の先祖のひいひい爺ちゃんは、悪魔と取引したらしい。
本当のことを言うと、その悪魔は神にあだなすから悪魔と自称する厳密には悪魔ではない超自然的なナニカだったらしいし、契約の内容も、少なくとも大悪党とは言い難いないようなのだが、ともかく、私の先祖はソイツと契約を結んだ。
その契約は以下のようなものだった。
この家と子孫の表家業に永遠の繁栄を約束する代わりに、この家の者は皆世直し怪盗として、悪人を改心させる義務を負う…。そんな感じだ。
そういうわけで、私は怪盗を辞めるわけにはいかなかった。
人が生まれながらに得ていた生活水準を手放すのは非常に困難で苦痛の伴うものだ。
繁栄を享受して生活してきた私たち一家にとって、一人娘が如何に怪盗に向いていなくて、捕まりそうだとしても、伝統に基づいて、私を怪盗にするしか道はなかった。
そう、稀代の大怪盗がこんなあっさり君に捕まったのは、そういう理由。
体力と身体能力だけが取り柄で、推理がてんでダメで、今日も名前をなんとかあげたくて警察のお手柄のおこぼれをあわよくば頂戴しようと現場を彷徨いていた君みたいなのに、稀代の大怪盗が捕まったのは、そういう理由。
ああ、ごめんなさい。
でも本当のことでしょう。怒らないで。警察を呼ばないで。
だって、そういう君が来るから、私は今日を決行日にしたのだから。
ねえ、私たち、手を組まない?
君の身体能力と体力と特技のマジックがあれば、怪盗業やってけると思うのよ。
私は…作戦と調査と交渉役担当。そういうのは得意なの。
君にとっても悪くない話のはず。
だってこうすれば、君は恨めしい警察という機関を手玉に取れるし、なにより、本名を明かさなくとも、有名人になれるのよ。
…そうでしょう?
君の過去やコンプレックスを調べた甲斐があった。
じゃあ契約成立ね。
それじゃあ、よろしく。とりあえずここから逃げましょうか。
君と紡ぐ物語、楽しみにしてるわ。
11/30/2025, 10:49:28 PM