ひとしきり泣いた後、彼女に別れを告げる。
自分が起こした事故で、先に逝ってしまった彼女。
どれだけ自分を責めても、誰に許されることもない。
一生自分の過ちを責め続けるだろう。
自分が自分を許さない限り。
あと半月で、彼女の誕生日だった。
その日にプロポーズしようと決めていた。
海が好きだった彼女のお気に入りのこの場所で、
助手席の君に渡すはずだった指輪は、
今もまだダッシュボードの中にある。
今もまだ、助手席に君がいる気がして。
…でもそこに、君はもういない。
ダッシュボードを開け、君に渡すはずだった指輪を取り出し、車を降りる。
崖下に広がる海を見下ろし、力いっぱい指輪を放り投げた。
小さな指輪は弧を描いて飛んでいき、すぐに視界から消えてしまった。
車に戻り、シートに身をうずめる。
隣に彼女がいた頃を思い出して、
「ごめん。僕は自分を許すことにしたよ。君がいない今、自分を許してくれるのは僕しかいない。僕が僕を許してあげなきゃ、僕の居場所は失くなってしまうから」
誰も座っていない、助手席を見つめて伝えた。
その直後、カーステレオから、君が好きだった曲が流れ出した。
−訪れるべき時が来た−
−もしその時は、悲しまないで、ダーリン−
二人で口ずさんだ曲に包まれて、僕は車をスタートさせる。
自然と口元が綻んでくる。
「悲しまずにいることは無理だけど、もう、一生分泣いたから、これからしばらくは泣かないよ。こんなサプライズをされてもね」
本当に、訪れるべき時が来たんだな、そんな気がした。
もうきっと、こんなサプライズは起きないだろう。
さようなら。
君が助手席にいてくれて、いつも僕は幸せだったよ。
3/17/2024, 8:52:04 PM