「なんで恋なんだろう」
ふわりと首を傾げる君は,ひどく不可思議そうに並べられた本を見つめる。入口のすぐ側 目に入りやすいその場所には特集コーナー。
「絶対に愛じゃなくて恋でしょ。失愛なんて聞かない」
"失恋"をテーマにした本を一つ一つ手に取りながら言葉を重ねる。そう考えると恋人も不思議な単語 そう思わない? と。
パラパラと本をめくる様子すら様になるのに口ずさむのはひどく哲学的で答えずらい質問。
「恋はひとりで 愛は共に。なら,恋を失えば愛になりそうなものなのに」
「恋でしか繋がれないなんて悲しい関係。愛で繋がれば否定的。日本語って難しい」
この関係はなんだろうね? 凪いだ海のように満ちた 透ける瞳が向けられる。その手には既に本はなく 指先同士は軽く絡み合っていた。
それは返答を求める質問であると同時に,解答を求めない疑問であった。なぜならこの関係はどちらにも分類されるものではなかったから。
「関係を恋と 感情を愛と呼べばいい。関係が切れても思いは残るから」
相手を思うのなら,それは愛に感じられた。だから君に対する関係は分からずとも,名を付けなくとも気持ちは変わらない。
それはきっと告白に似ていた。どこか寂しそうに笑う君が見えたから。
「……そっか」
リン 小さな鈴の音がする。
それはきっと恋の始まりの音だった。
6/3/2023, 10:32:15 AM