桜井呪理

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「閉ざされた日記」


暗い、暗い部屋の奥。
俺は一人で座っていた。
「やっちまった〜〜!!」
部屋の隅々まで響くほどの声で叫ぶ。
(研究員の人ぶん殴っちまったのは不味かったかなぁ)
ところどころ骨が軋んで痛む体で、ぼんやり考える。
俺たちは実験台。
異能を持った子供の人体改造とか、自我を欠落させることによる兵器化だとか、おぞましいったらありゃしない。
(さぁーて、これからどうすっかなぁ
 抜け出してえけど、、、、。   )
どうしようかと頭を悩ませる。
その時。
部屋の角で、物音がした。
「誰だ?」
物音がした方を見る。
「、、、お前かよ」
拍子抜けしてしまった。
「はっ、悪かったねぇ僕で」
「本当だよ」
「それよりさ」
レウの声が、少し強張った。
「ここから抜け出さない?」
「、、、はぁ!?
 無理に決まってんだろ!
 あいつらの力のことわかってんのか?」
「つれないなあ〜
 でも、いつかはできると思わない?」
どきり、とした。
こいつとならできるかもしれない。
いつか。
いつかここから逃げられるのかもしれない。
「いつかな」
できるだけ平然という。
「はいはい、楽しみにしてるよーん」
本当に、いつかそんな日が来るんだと思った。
そしてその隣には、お前がいると思っていた。
当たり前のように。
笑顔で笑ってくれるんだと思っていた。
保証なんて、どこにもなかったのに。


それからしばらくして、レウが死んだ。
実験の拒否反応で、あっけなく。
俺は、全く泣けなかった。
そのすぐ後ぐらいに、俺は警察に助け出された。
抜け出せなんてしない。
俺は無力な子供で、夢なんてそんなもんだった。
警察の人が、レウの遺品だと言って一冊の日記帳を渡してくれた。
古ぼけた日記帳。
記憶が、蘇った。
『レウ、なんだよこれ〜』
『あー!それは見ちゃダメ!』
『え〜ケチじゃん!』
『じゃあ、いつか僕が見ていいって言ったら見せてあげる。それまで待ってて!』
涙が溢れた。
なんで忘れていたんだろう。
なんでもっといろんなことを話さなかったんだろう。
なんで、なんで、なんで。
「なあ、日記、見ていいって言われてねーぞ
 何書いたか知りてーのに、これじゃ見れねえじゃん
 返事しろよ、レウ、、、」
気づけば、写真に向かってそう言っていた。
日記の裏表紙を見る。
『ここを出たらやりたいこと!
 ①零といっぱい遊ぶ
 ②普通になる
 ③零のしたいことをする!』
レウがやりたかったこと。
全部、俺がしたいと言ったことだった。
「レウ、俺、ここに書いてあることのうち二つはもう
 できねぇけどさ、この普通になるってやつ、やって    
 みるよ。
 そしたら、この日記、見てもいいかな、?」
涙を拭って美しい立ち上がる。
普通になって見せるんだ、精一杯。
レウが心配しないくらい。
その為に。
今はまだ、閉ざされたままにしておこう。
テーブルの上に置かれた日記が、涙と共に輝いた。

1/18/2026, 3:32:39 PM