光合成

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『曇り』

僕は春が好きだった。
穏やかな日差しと柔らかい花の香りが好きだった。
春の空は薄い水色で透き通っていて好きだった。
夜の月は霞みがかった朧月で好きだった。
桜の花が満開に咲くのも、散るその一瞬も好きだった。
桜の咲く海辺で君が笑う姿が好きだった。
そんな君の姿が見られる春が好きだった。

肌は白く肉付きの良い綺麗な脚で駆ける君が好きだった。
素足で砂浜を歩き、バシャッと波を掻き乱す。
色んなところで散歩をするのが好きな君は、春が好きだった。
だから僕も春が好きだった。

君と過ごす春はどれも鮮やかで晴れていた。

でもある日、君は事故にあった。
もう二度と、その綺麗な脚で立てなくなった。
肉付きの良かった脚は貧相になり、血色も悪い。
君はふくらはぎに残る古傷を気にしていたが、そんなものは見る影もないほどに新たな傷で消えていた。

輝く海が、淡い桜が、小さなてんとう虫が、どれもが霞んで見えた。
どれも灰色で鮮やかだった色彩は君の笑顔と共にどこかへ消えてしまった。

僕は気づいた。
春が綺麗に見えていたのは、
僕の見る景色の全てが鮮やかで綺麗だったのは、
君が笑っていたからだと。

どれだけ快晴でも、君が笑ってくれないとそれは曇り空と同じだった。
晴れているのに空は泣きそうだった。


2025.03.24
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3/24/2025, 8:36:21 AM