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ゴロゴロ……と低い音が耳を打つ。
読んでいた本から目を外して窓の外を見やると、遠くで激しい光。少し遅れて、地鳴りのような音。

ああ、雷か。
読書に夢中で気が付かなかった。

いつの間にやら外はどんよりと暗く、開けた窓から入る風はひんやりとしているのに湿っぽい。雨も降りそうだ。
読みかけの本を置いて立ち上がり、家中の窓を閉めて回る。
その間にも、雷は少しずつ近づいてくる。

あの人が帰って来るよりも、雷のほうが先に辿り着いたりして。

そんなことを考えながら、遠くで光る雷と、その音が聞こえてくるまでの時間をゆっくり数える。

いーち、にーい、さーん……。

『遠雷』

8/23/2025, 10:45:43 AM