叶わぬ夢
「俺ってさこれ許していいの」
午前5時のまだ薄暗い窓の前で、私はキャミソールのまま頭上に響くその声を聞いていた。私の目にはうっすら小さな血痕がのこるベッドの白いシーツが見えている。そのシーツを握る手の冷たさや唇の渇きはやけに感じるのに、ちっとも頭は焦っていなかった。ただ、シーツにある暗くて見えにくい血痕を見て、彼の肌を思っていた。彼はひどいアトピーを抱えていたため、ボリボリとかく皮膚から剥がれ落ちて現れた血がシーツに滲んでいる。毎月もらわなければいけない薬は、健康保険の手続きをせぬまま手に入れることができなかった。金もなければ時間もない。役所は平日しかやっていないのに、フリーターはいつまでも働かなきゃいけなかった。
私は彼のことを思っていた。それは心配とかそういうのじゃなくて、もっと不健康でいて虚しいものだった。
この肌荒れも、皮膚を掻いて痛んで眠れない彼の顔も、すべて私のせいのような罪悪感を感じていた。そして、私は目の前にあるシーツに染みついた消えない血痕をただただ眺めて彼を思っていた。
「なぁ、聞いてんの。俺これ許していいの」
彼の手にはスマホがあった。私のスマホだった。
彼の声は決して威圧的なものではなかった。優しい男性の声で、震えていた。ぽつりぽつりと大きな目から涙が溢れていた。流すまいと目一杯に水滴が集まって大きな塊にになり、こぼれ落ちていた。私は胸が張り裂けそうだった。
私は、許されざる存在なのか。
ならば、私は彼を許すべきなのか。
私は、彼から許されようと懇願するべきなのか。
私はよくわからなかった。私ですら数々の傷つきを、許してもらうべきか否かわからなかった。私は現状にあるすべてのことは自分が悪いのであるという立場でしか物事を見れなかった。だからそんなこと聞かれても、私が悪いという選択肢しか存在していなかった。
彼は続けた。
途中 続きます
3/18/2025, 7:44:25 AM