私にはキライなやつがいる。同じクラスの内田こころだ。
あいつはすごくぶりっこで、私が好きだったこうくんを奪ったんだ。分かりやすく甘い声だと可愛い子ぶってるって思われるからって、あいつはあえてちょっと冷たい口調でこうくんを馬鹿にしている。
「まーた授業中に寝てたでしょ、そんなんだからベンチ要員なんだよ」
でもこうくんは優しいから、このときも笑いながら、「うるせーよ、こころだって寝てただろ」って返していた。
あいつは狡猾だからそういう気遣いができるこうくんの優しさにつけこんで、いつもクラスで優位に立とうとしている。人を馬鹿にすることで自分の方が上だと暗に示して、王様気分を味わっている。
みんな頭が悪いからあいつの上っ面なだけの態度にひれ伏すように、休み時間になるとあいつの周りに群がる。あいつは気分が良くなって更に騒ぎ出す。
野蛮なやつらだ。あーうっとうしい。
授業が始まっても、担当の先生によってはあいつらはやかましい。
「せんせー、難しすぎて分からないですー」
なんでこんな簡単な問題が分からないんだよ、と心の中で毒づく。先生がはいはい、と呆れながらもう一度説明すると、私も間違った解釈をしていたことが分かった。でも、途中までは合ってたから、あいつとは違う。
あいつはよく「分からない」って言って先生とか私に質問してくる。私はオトナだからキライなやつでも態度に出さず丁寧に教える。そうすると毎回あいつは二重を三日月のようにして「さすが、説明うますぎ!ありがと」って言う。
あいつの白い肌に教室の光が当たって、いつも眩しく感じる。それはあいつ自身の内側からくる輝きのようでもあり、心の明るさがそのまま反映されているのではないか、と思う。
羨ましい。
本音を言うと、私はこころちゃんみたいになりたかった。
綺麗な二重で、色白で細くて、小さい顔でサラサラな黒髪で、みんなの人気者として産まれたかった。本当はもっと教室の中で明るく振る舞いたいし、こうくんに軽口をたたきたいし、付き合いたいし、友だちと集まって休み時間にダラダラ話したい。誰とでも屈託のない笑顔で話したい。分からないことを恥ずかしがらず人に聞きたい。もっともっと、自分自身を認めてあげたい。
なのに、私の心は真っ黒で小さくて、脆い。脆いんだったらいっそのこと壊れてしまえばいいのに。鬱陶しいのは、毎回騒がしいのは小心者の自分の心なんだ、そんなの分かってるんだ。
変わる、変わってやる。もう本来の自分を殺して、ビクビクして斜に構えて強がるのはいやだ。
こころちゃんみたいになるのは難しいかもしれないけど、少しでも今よりも楽に生きれる心を手に入れるんだ。
12/12/2024, 11:21:21 AM