Werewolf

Open App

【真夜中】

 車の音もまばらな深夜、住宅街を歩く。不眠症に悩まされている僕にとって、こうして眠れない夜を歩くことは日常茶飯事だ。幸運なのはウェブデザイナーとかコーダーとか言われる技術を身に着けているお陰で、理解ある会社に所属出来て、昼の眠い間も、辛うじて動ける夕方以降でも、ゆるゆると仕事ができているということだ。
 散歩から帰って朝方になると肉体が限界だとでも言うように入眠し、昼間で何度か目を覚ましながらの睡眠を取る。それまでのある種の気晴らし。ひんやりした空気の中を歩く。静かな中に、時々つけっぱなしのテレビや電気の光がカーテンの向こうから漏れていたり、小さな声が聞こえたりする。
 サンダルでざりざりとアスファルトを引っ掛けて歩く。ジャージの上下にぼさぼさの頭で、とてもじゃないが怪しくないとはいえない。実際何度か警察官に声をかけられたこともある。身分証を持ち歩くことを覚えたし、何度が会った警察官とは挨拶で済むようにもなった。
 でも、こんな生活がいつまで続くんだろうと思うこともある。以前の会社で超過勤務を繰り返し、カフェインドリンクに頼り続けて肝臓を壊して、入院から復帰したら席がなくなっていた。人事と話した時には傷病扱いで、手当ても出るし席も残ると聞いていたのに、いつの間にか勝手に退職扱いにされて、自宅に離職票が届いていた。勿論職安に時系列から整えて訴えたし、社長は認めなかったが社内では認めたとのことで、会社都合退職にはなったものの、重労働とストレスで不眠症になった。
 空を見上げる。排気ガスで曇った空には、大きな星しか見えない。田舎から出てきてこのザマだ。両親には帰ってきてもいいと言われているが、姉夫婦が同居する家に戻る気は起きなかった。
 ざりざりと、アスファルトをサンダルの裏に引きずりながら歩く。途中の公園のベンチに座って、またぼんやりと空を見上げた。

5/17/2023, 11:16:20 AM