やさしくしないで、か。
今日のお題を見て、恋愛系だな、と頭を悩ませた。
確実に女がつぶやいている。こういったものは、男にはつらい。
ベッドに仰向けの姿勢。
頭には枕があり、病院を思わせる白く高い天井に向かって、両手を上げながらのスマホ操作だ。
両肘をついているが、腕が疲れる。体を横にして、楽な姿勢になる。
「さてどうしたものか……」
俺は今日のお題について、あれこれと頭を巡らせていると、「何見てるの〜」と天井から手が伸びてきた。
「うおっ」
なつみに俺のスマホをぶんどられ、そのまま画面を見られた。一気に手持ち無沙汰になる。音読される。
「やさしくしないで……、これがお題ってわけ?」
「そうだよ」
「ふ〜ん、メンヘラ女が言ってそうなお題みたいね。
やさしくしないで。もうほっといてよ!――みたいな?」
なつみはジェスチャー混じりに反応する。
自分の体を抱き締めるポーズをとり、男から防御するような感じ。いかにもめんどくさい女だ。
「いつもこんななの?」
このアプリの操作の仕方を知らないからか、何もせずスマホを返してくれた。
「そんなわけないよ。まあ、半分くらいは恋愛系のお題かな」
「理系なのに、こんなアプリに向き合っちゃって」
「文理とか、関係ないだろ」
「どうだか。理屈っぽいことしか書いてないんでしょ。どうせ」
「ああそうだよ。だからどうしたっていうんだ」
「別に。でも、今は私に向き合ってよ」
「おいおい」
と、俺は呆れていた。「まだするつもりかよ」
「まだって、まだ二回目。だってここは、『そういうところ』でしょ?」
もう夜の時間が深まった頃合いだった。
歓楽街に沈んだホテルの一室。
すでに夜のことを成した後の、ピロートーク的ムードでもある。だからなつみと談笑している。復帰待ちというものだ。
いつものこの時間の俺は、アプリに向き合う時間である。これを書かなければ、毎日が落ち着かない。
「なら、勝手にしろよ」
「おおきに」
そう言って、フリック入力をしていって、文章を作っていった。身体をさすりながら、下方向よりキスの落とすリップ音と、水音が聞こえた。
しばらく経って、スマホの画面を切った。
「もういいの?」
「筋は固まった。あとはシャワー浴び終わったら」
「ええ、終わったらね……」
二人の顔は徐々に近づいていき、口づけを交わした。
それでなつみは俺の耳元にこう囁くのだった。
「もうやさしくしないで、いいのよ?」
2/4/2025, 9:36:24 AM