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噛むとじゅわっと旨みが染み出す甘めの卵焼きを、皮目がパリッと香ばしい焼鮭の横に添える
お出汁が香るお豆腐と菜っぱのお味噌汁の火を止め、パッパッと小ねぎを散らす
ふんわりと湯気をあげるつやつやのご飯をおひつに移したら、よく練られた納豆の小鉢とパリパリとした食感が楽しいお漬物の小皿も並べる
今日はきゅうりと大根にしましょう

目覚ましが鳴る前にパチリと目を開け、まだうっすら霞がかかったような思考のまま、頭の中で調理の段取りをさらう
これから食卓に並べたい朝食をひとつひとつ思い描いて、布団の中でうふふと小さく笑みをこぼした


よし、と心に弾みをつけ、背中に感じる温もりを起こさないよう、そおっと布団を抜け出す
……抜け出そうとした

背後から回された腕の拘束が重く、もぞりもぞりともがいてみるもなかなか上手く抜け出せない。なんならゆるく抱えなおされ、ますます起き辛くなっていく

実は起きてるんじゃ?と疑いの目線を背後へ向けるも、目の端にうつるのは安らかな寝息をたてる、あどけない寝顔だ
いつもの精悍な顔はどこへやら、とてもとても幸せそうな寝顔である
……あら、よだれ

ねえ、私みんなにごはんの作り方教わったのよ
貴方においしい朝ごはんを食べて欲しくて
目覚ましが鳴る前には起きたかったから、昨夜はいつもよりずいぶん早くお布団に入ったの


腕の中、一人静かに奮闘を続ける間にも、窓の向こう、夜の藍色はほんの僅かに白んできたような気がする
まだまだ拘束は解けそうにない


目覚ましが鳴るいつもの時間、掠れた声でおはようと告げてくる最愛を恨めしげに見つめる未来が頭の片隅をよぎった気がするが、いったん考えないことにした



『目が覚めるまでに』
/幸福な食卓(がんばれ)

8/4/2024, 9:44:20 AM