『刹那』
駅のホーム、閉まりかけたドアの隙間から、一瞬だけ視線が絡まった。
見知らぬ人。
けれど、その瞳の奥にある寂しさが、鏡のように自分を映した気がした。
心臓が跳ね、指先が微かに動く。
何かを言おうとしたのか、あるいは手を伸ばそうとしたのか。
自分でも分からない。
やがて、無情な電子音が響き、ステンレスの扉は閉まった。
ホームから何事もなかったように電車が滑り出す。
加速する風景の中に、その影は瞬く間に溶けて消えた。
「今の、は……」
呟きは騒音に掻き消された。
瞬きにも似た、刹那の邂逅。
それなのに、こんなにも喪失感が残る。
二度と交わることのないだろう軌跡を想い、いつものように手すりにもたれて息をついた。
4/29/2026, 3:59:29 AM