蓼 つづみ

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――転写

死後、肉体が九相図のように無へと帰するのではなく、世界へと滲み広がってゆくのならば、意識もまた消えることなく、どこかへと移ろい、転写されてゆくのではないか――その感覚の断片


境界が溶け ひとつの場となって広がり 密度が突然 変わる

触れたはずの感情は 質量として 境界を失ったまま沈み

意識は留まらず 静かにほどけ 拡大してゆく

残滓は 風のように漂い その重い広がりの中で 息をするのをやめたまま ゆっくりと沈んでゆく

消えたはずの言葉も 感覚も揺蕩いつづけ 光も 形もなく

意志も 抵抗なく押し流され 鈍い震えとして 微かに残り 霞になる

記憶の断片は 保存されず しかし 消滅もせず 通過の途中で 重さだけを落とす

そこには 音も輪郭もない ただ 落ちてゆく速度だけがある

ここでは 終わりはなく 始まりもない あるのは 流れと 密度の移ろいだけ

その残像は また別の内側で 意識の隙間を 静かに滑り込み 再生されてゆく

題 無色の世界

4/18/2026, 10:48:56 AM