マナミが泣いている。
天国へ行ってしまった、克也からの告白を読んで。美しい涙が止めどなく溢れて机を濡らす。
俺は、躊躇いがちにマナミの背を撫でながら、細い背中だなと驚いていた。
こんなに華奢だったか。高校に入って、たまたまクラスが一緒になった俺たち。名簿の番号が近かったせいで、話をするようになった。仲良し5人組と認定され、子どもかよ、とツッコミつつも離れずに卒業まで過ごした。
男3人に女2人ーー微妙なバランス。誰かと誰かが仲間内、カップルになれば関係性も変化していたかも知れない。そのことにみな、気づいていたから、思い人がいても誰も口にしなかったのかも知れない。
自分もそうだーー
「ごめん、泣いて……、少し驚いちゃって」
ややあって、マナミは顔を上げた。
無理もない。俺たちはイヤ、と首を振るしかなかった。
「この机。もらえないかな、閉校で処分されるのはつらいもの」
愛おしそうに、天板の文字をなぞる。
その仕草で、どれだけマナミが克也をまだ大事に思っているかを知る。死んだ人間には勝てねえよ。刑事ドラマの中で出てきた台詞を思い出す。
「多分、大丈夫じゃないか。天板だけでもって、俺からもかけ合ってみるよ」
修一が言った。うん、とマナミが頷く。
修一の父は教育委員会に勤めている。今日の閉校式典を取り仕切ってるのが、修一の父親だ。
「マナミ、机の手配はしてやるから、ちゃんとケリをつけろ。もう克也はいないんだぞ。分かるな」
「今、ここで言う?全く修一は、昔からそーゆーとこあるよね」
マナミを慰めていた和紗が咎めた。俺もつい笑ってしまった。確かに、こいつは昔から、そういうとこ、あるわ。
すると不意に、じゃああたしも言っちゃおうかな。と、屈んでいた和紗が身を起こしながらスカートの裾を払った。
「あたしたち、こんど結婚することになったの。6月に。結納は済ませて、式場とか打ち合わせ中、ーーね、颯太?」
目を赤くして、化粧も剥げかけたマナミの前で、和紗は言ったのだった。
マナミにーーいま、このタイミングで。
俺は上手く頷けなかった。
ハタチ越えたら結婚しような
机に置いた俺の手元に、克也の文字が迫ってきた。
#もう一つの物語
「愛言葉2」
10/29/2024, 10:14:58 AM