君は今、どうしているんだろう。
しとしと。
昇降口から見上げた空はどんよりとしていて、大雨とも小雨ともいえない微妙な雨が降っていた。
先週から梅雨に入ったこの街では、この雨はすぐには止まないことは十分に分かっている。
濡れて帰るのはものすごく躊躇われたが、今朝の母親の声掛けを聞かず傘を忘れてきた自分にはそれ以外の道は残されていない。
ふと、自分が想いを寄せる女の子のことを思い出した。彼女はどうしているだろうか、まだ学校にいるのか、それとも帰ったのか、帰る時には濡れずに帰れただろうか。
俺は少し前に想いを寄せる女の子、同じ委員会の先輩に告白して振られた。想いを告げた瞬間の先輩の戸惑った瞳はいつまで経っても忘れることができない。
失敗した、そう悟った時にはもう慌てて忘れてほしい、これまで通り仲良くしてほしいと捲し立てていた。
俺の告白のせいで疎遠になったらと心配していたけれど、優しい先輩は俺の言う通りに変わらずに接してくれた。そう望んだのは自分のくせに、あまりにも変わらない先輩の態度に俺は密かに傷ついた。俺の告白は1ミリも彼女の気持ちを揺らせないのだと落ち込んだ。
傘がない絶望的な状況でも思い出すのは彼女のことだなんて、振られたくせに未練がましくていけないと思わず自嘲的な笑みがこぼれる。
背後に人の気配を感じて、あぁもしかしてお仲間かなと思っていると、
「…もしかして傘無いの?」
掛けられた声は想いを寄せる人のもので、俺は勢いよく後ろを振り返った。
「あ、えっと、そう、ですね…すみません…」
さっきまで考えていた人が目の前に現れるなんてと動揺が止まらず、訳の分からないことを口走ってしまう。
そんな情けない姿の俺を見て彼女は、
「どうしてすみませんなの笑
良かったら一緒に帰る?」
と可愛らしい笑みを浮かべた。
好きな人と一緒に帰るなんて降って湧いた奇跡に感謝せずにはいられず、俺は勢いよく頷いた。
傘がなくて憂鬱だった帰り道のはずなのに、隣には好きな人がいて、いわゆる相合傘をしている。
「傘入れてくれてありがとうございます。先輩濡れてないですか?」
うるさい心臓の音に焦りつつも、精一杯平静を装って彼女に声を掛ける。
大丈夫だよと返してくれる声に安心すると同時に、絶対に彼女を濡らしてなるものかと自分が濡れることは構わずできる限り彼女に傘を傾けた。
俺を見つめる彼女の顔はなんとも可愛らしくて、思わず抱き寄せたい衝動に駆られる。
仲の良い後輩でも十分幸せだけれど、もし叶うのならいつかは、彼女の彼氏として傘を傾けたいと思った。
そういう、物憂げな空の帰り道だった。
2/26/2023, 10:41:19 AM