かたいなか

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「6月18日あたりが『落下』ってお題で、農耕行事をネタにして書いたのよ。『泥落とし』とか、『虫送り』とかいうのが、あるらしいじゃん」
題目の配信日、11月23日は、神社で「新嘗祭(にいなめさい)」なる農耕儀礼が開催されるとか。
某所在住物書きは己の過去投稿分を、スワイプで辿ろうとして面倒になって、結局それを諦めた。
「で、11月23日配信が『落ちていく』だもん。これは神社の新嘗祭に絡めて、『昔は神社の高い所から餅を撒き落として、参拝者に配ってた』みたいな話を書いたら、イッパツじゃね?と思ったの」

はぁ。 ため息ひとつ吐き、物書きが呟いた。
「俺の執筆スキルじゃ、ぜってー堅苦しくて読めたもんじゃねぇハナシしか出てこねぇよなっていう」

――――――

「雪国の田舎出身」っていう職場の先輩の、「田舎」までは分からないけど、「雪国」が一体どこだったのか、突然正解が目の前に降ってきた。
それは職場で聞いてたお昼のニュースだった。
お昼休憩が始まると、誰が操作してるとも知らないけど、休憩室のテレビの電源が入る。
別に誰が観てるとも聞いてるとも知らないけど、そのテレビはいっつもニュース番組が映ってる。

いつも通り午前の仕事が終わって、いつも通り先輩と一緒のテーブルで、いつも通りにお弁当広げてコーヒー持ってきて、
今日も面倒な客が来たとか、そういえば昨日近所の神社でニイナメサイという祭りがあってとか、
なんでもない話をしながら、いつも通り、ランチを一緒に食べてたら、
先輩が、ふと、スープジャーを突っつくレンゲスプーンの手をとめて、テレビの方を見た。

映ってたのは、先輩が3日前、11月21日にスマホで私に見せてくれた、「実家の両親が写真を撮って送ってくれたイチョウの木」。
「昔々のイタズラ狐が、自分の犯したイタズラの始末をつけるために、イチョウに化けた」っていうおとぎ話がある、「イタズラ狐の大銀杏」。
これから段々天気が荒れてくる現地で、実質的に昨日が最後の見頃でしたって、
「北国」の樹齢何百年とも知れぬイチョウの木が、紹介されてた。

「おっと」
今まで私に、どこ出身とも教えてくれなかった先輩が、軽いアチャー顔で呟いた。
「とうとうバレたか」
先輩が言ってた「故郷」の話に、段々、オチがついていく。先輩の「故郷の雪国」がオチていく。
テレビの中で「私はただいま、◯◯地区のイチョウの大木の前に来ております」って語ってるレポーターの寒そうな声が、「雪国」に、落ちていく。

先輩は半年以上前、3月の中頃、「最高気温氷点下は3月で終わる」って、「なんなら雪が4月に」って言ってた。
そりゃそうだ。
その翌月、4月の最初あたり、低糖質バイキングの屋外席で、北海道出身っていう店員さんと雪国あるあるで盛り上がってた。
そりゃそうだ。
5月6月の30℃予報でデロンデロンに溶けて、7月はざるラーメンだか、ざる中華だかを教えてくれた。
そりゃ、そうだ。
先輩の故郷は、雪国だったんだ。

「来年連れてって」
テレビのキレイで大きなな黄色を、それを見上げるちっぽけな観光客を見ながら、ポツリ呟いた。
「画像なら3日前見せただろう」
先輩はスープジャーつんつんを再開して、随分そっけないけど、表情がちょっと穏やかだ。
「わざわざ遠い、何も無いあの街まで行く必要など」
先輩は言った。
「それでも行きたいというなら……まぁ、まぁ。
うん。お前が凍るだろう最低体感2桁の、真冬以外であれば。検討してやっても」

11/24/2023, 1:25:58 AM