遠野 水

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【ぬるい炭酸と無口な君】
汗をかいた缶をずっと撫でていた
波の音だけが耳に届く
私は君の声を待っている
ひと口またひと口と私はぬるい炭酸を飲む
飲み切ったら私から言うよ
「ねっ、今夜の夏祭り、一緒に行ってくれる?」
無口な君は何も言わずにコンクリートのボコボコを指でなぞっていた私の左手の小指に
恥ずかしそうに小指を重ねて
小さな指切りをした
うつむいていた私はハッとして顔をあげた
其処には君の顔が近くにあって
ぬるい炭酸を飲んだ私の唇に
無口な君は分かるようで分からないような 
かすかなキスをした
私はただ「あっ」としか言えなかった
本当は「好き」って言いたかったのに

8/3/2025, 11:12:21 AM