弥梓

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『涙の跡』
※BL

 朝、目を覚まして一番に目に入るのは、今日も恋人の頬に残る涙の跡だ。
 俺に心配をかけまいと、夜な夜な声を殺して静かに泣いているのも知っている。背中越しに聞こえてくる微かな嗚咽を聞くと、抱きしめてそんな会社辞めてしまえと言ってしまいたくなる。
 けれど、同じ男として仕事を投げ出しなくない気持ちも、仕事に悩むそんな姿を見られたくない気持ちも分かる。
 だから今日も涙の跡には気が付かないふりをして、恋人を起こさぬようにベッドを抜け出る。
せめて暖かな朝食を用意して、笑顔で仕事に送り出してやりたい。
 寝室の扉をそっと閉める時、「いつもありがとう」と小さな声が聞こえた気がした。

7/26/2025, 2:23:00 PM