“左手”
就活から家に帰ってくると、あの人が寝ていた。
スーツはやっぱり息苦しいなと考えながら、あの人を見た。
あの人はいつも、人気者だ。会社は忙しいはずなのに、度々うちに来る。きっと仕事で疲れたのだろう。
目の前のソファがあるにもかかわらず、彼はラグですやすや猫みたいに寝てる。
イケメンと言われるだけあって、やっぱり寝顔は綺麗で。髪を伸ばしたら女の子にも見えそうだ。
体は横を向けて寝ていたから、私も向き合うようにゴロンと寝転がってみた。スーツのせいで寝心地は悪い。
しかし、目の前の人を見てると心地よくなってくる。
不意に、目の前に手があることに気づいた。手のひらが上を向いている。
昔、手繋ぐの好きだったよな。
なんとなく、手を近づけてみる。あの人の左手と私の左手が、重なる。急に暖かくなった左手はあの人の左手が優しく握っていた。緩いけど、離せる訳では無い。
私達はずっとそんな感じだったのかも。
今は日が沈んでいるはずなのに、その手は陽の光が当たっているみたいに暖かった。気づいたら、ふわふわ眠りについていた。
目が覚めると、あの人は手を握ったままこっちを見ていた。
「おぉ、おはよ。」
『ん…うぅ、おはょ』
「まだ、このままでも大丈夫?」
『うん。いーよ。どうやって入ってきたの?』
「部屋、隣でしょぉー」
そんな感じで、ふわふわ適当に喋る。
この時間が、暖かくて、心地いい。
終わらなければいいのに。そう願ってしまった。
【あの日の温もり】
3/2/2025, 5:51:12 AM