ただ静かな空間だ。
聞こえてくるのは音楽だけで、
その歌詞の一つ一つが鮮明に聞こえてくる。
お互いが何も言わず
ただその車内から見える景色をずっと見つめているだけだった
「はぁ…」とその空間に一つの大きな声が聞こえる。
「…帰りたくない?」
その景色をまた見るといつも見ているその街の風景だった。
出来ることなら…もし叶うのなら
今日をもう一度最初からやり直せたら…と思ってしまう。
あの花を受け取ったあの瞬間に戻れたらと考えてしまう。
「…俺だって帰りたくない」
「出来ることならもうこのままずっと一緒にいたいけど…明日から仕事だろ?」
その言葉を聞くと尚更肩を落とす。
仕事…か。
今まで自分の為だと思って頑張ってきたその仕事も
今は彼といたいから…離れたくないから
行きたくないとさえ思えてしまう。
「…彩芽?行きたくないなんて思っちゃダメだよ」
「えっ!?」
「図星だろ。ちゃんとお金稼がないと」
その言葉に下をまた向く。
「…将来2人で暮らしてく為に、少しでも貯めておかないとな」
「えっ!?」
彼が笑顔を見せながらずっと握られ続けているその手を見る。
「俺さ、夢出来た」
「夢?」
「まずは2人で沢山デートしたいな、旅行とかも行きたいし…将来結婚もしたい。いつかは俺たちの子供も欲しいし。で、彩芽がデザインした家で暮らす。家族で旅行にも行って…」
「待って待って!」
彼女が笑いながら朔の話を止める。
「どれだけあるの?」
「沢山」
「まるで…七色のクレヨンみたいね」
「え?七色のクレヨン?」
「お家に帰ったら調べてみて?」
彼が少し首を傾げる。
「…私のデザインした家に家族で住みたいか…」
「俺彩芽のデザインした家好きなんだ」
「だからさ、仕事行きたくないって思わないで?最高の家建てれるようにデザインの腕磨いてよ?」
そのままゆっくりと車が停止する。
横を見るとそこは彼女のマンションの前だった。
顔がお互いに近づくと自然と口が重なり合う。
「……また明日、会おう。だから仕事頑張っておいで、な?」
彼の車から降りると優しい笑顔で手を振りながら
その車はゆっくりと前へ進んで行った。
episode 『七色』
3/27/2025, 9:51:20 AM