『放課後、遊びに行っていい?』
平日の朝、一件のLINEに眉を顰める。
メッセージの主は、友人の百合子。
個人的は友人と呼びたくないけれど、周りから見れば友人に見えるだろう。
不本意ながら。
だから『一応』友人から送られた、このメッセージ自体は何らおかしいところはない。
けれど、私は今まで奴から『遊びに行っていいい?』なんて、LINEでもらったことなどない。
遊びに来たければ、アポもなく勝手に来るやつなのだ。
といか当然のように毎日来るので、連絡の必要性が全くない。
そして伝えたい事がある場合も、わざわざ私の所に来て伝えるくる。
なので遊びのお誘いどころか、普通のLINEのやり取りすらしたことがない。
だから今回だって、学校に来てから聞けばいいのである。
にもかかわらず、なぜLINEを送ってくるのか。
非常にきな臭い物を感じる。
なにか企んでいるのだろうか?
私は色々考えつつも、とりあえず自分の正直な気持ちをLINEで送る。
『だめ』
これでよし。
正直、毎日来る百合子には辟易していたのだ。
駄目だと言っても、勝手に来る。
言わなくても、勝手に来る
だから、どう返しても結果が変わるとは到底思えなかったけれど、正直に私の意思を伝える。
正直なことは大事だ。
私のメッセージにすぐ既読がつく。
さて、百合子はどう出る?
『分かった』
意外にも、物わかりのよい返事。
というか、こんなに素直な百合子は初めてだ。
メールでは人格がタイプの人間かしら?
普段も、ずっと素直だったらいいのに……
どちらにせよ、これで今日の放課後の予定が空く。
久しぶりの一人の時間。
せっかくだから読みたかった本でも読もうかしら……
あーすっきりした。
……
…………
だめだ。
モヤモヤする。
いくらなんでもおかしい。
あの百合子がウチに来ない?
絶対に何かある。
だけど
『何かあった?』
色々遠回しな言い方はないかと考えるも、結局率直に聞くことにした。
気づかれるとは思わないけど、気にしていることがバレたらきっといじってくるだろう。
それは避けたい。
『風邪ひいた』
風邪ひいた。
百合子、風邪ひくことあるんだ。
クラスの中で、馬鹿の代名詞と評判の百合子が風邪をひく……
非科学的ながら、百合子は風邪をひかないとばかり。
思い込みは怖い……
とはいえ、納得できる部分もある
通りで百合子の様子がおかしいはずだ。
というかさっきの質問に『いいよ』と答えたら、本当に私の家に来たのだろうか……
来るのだろうなあ。
だって百合子だもの。
私が物思いに耽っていると、百合子から新しいメッセージが届く。
『風邪移さないように、学校終わったらすぐ帰るね』
私は再び眉をしかめる。
もしかして学校に来ようとしてる?
風邪ひいてるのに?
これは止めなければいけない。
超健康優良児の百合子ですら、感染してしまった風邪ウイルス……
そんなものが学校で広まれば、たちどころに学校閉鎖である。
『だめ。
学校は休みなさい』
『授業受けないと』
『普段勉強しないくせに、今回だけ優等生ぶってもダメ。
帰りがけに差し入れ持って行ってあげるから、大人しくしなさい』
私がメッセージを送って、すぐに既読がつくが返事が返ってこない。
長文を考えているのかと思えば、返ってきたの2文字だった。
『うい』
まったく世話の焼ける。
素直になったと思ったが、風邪くらいでは頑固さは治らないらしい。
ともあれ、百合子が学校を休むなら、私は今日一日平和に過ごせるだろう。
久しぶりの平穏、堪能することにしよう。
私はウキウキで、玄関で靴を履き替えていると、スマホが震えて一件のLINEの通知を知らせる。
『学校を休んで風邪が治ったら、放課後遊びに行っていい?』
百合子はどうしても、私と遊びたいらしい。
私は仕方ないと少し笑ってから、百合子にメッセージを返す。
『だめ』
7/12/2024, 3:20:36 PM