うまくいかない日は誰にでもあると思っている。
牛乳を買い忘れたり、傘を持ってないのに雨が降ったり、なんでもないところでつまづいて転んだり。
今日はきっとそんな日だったのだろうと。
だから。
「藍佑(あいすけ)のマグカップ割っちゃったんだ...」
手が滑るなんて普段しないことをしてしまうんだよ。
「え、大丈夫?怪我してない?」
「大丈夫だけれど......ごめんね。折角ルームシェアする記念に買ったやつなのに...」
足元には大小様々に散った破片があった。
「あー...まぁ、そういうこともあるよね。新聞と軍手持ってくるよ」
そう言って彼は後ろを向く。
ペアとまでは言い難いが色違いの二つの物が壊れるといい気がしない。しかも相手の物だと尚更。
「............」
割れた藍佑の青いマグカップを見て、ボクもいつかこんな風に壊してしまう時が来るのだろうかと柄にもなく考えてしまった。
何か間違えた時、今まで積み重ねてきたものが急に無くなった時、こうやって彼はボクの手によって割れてしまうのかと。
そんな風に考えてしまうのは、ボクが彼に友人以上の感情を抱いてしまっているからで__...
「山吹(やまぶき)」
ふと我に返って顔をあげるとそこには、色違いのボクの黄色いマグカップを持った藍佑がいた。
「...藍佑?」
藍佑はそれを手から離す。
次の瞬間、部屋にガチャンッ、と割れた音が響いた。
藍佑はボクのマグカップを、その割れたマグカップの上に落としたのだ。
驚いて下を見ると、ボクのマグカップも藍佑のマグカップ同様割れていた。
「ほら、これでおあいこ」
藍佑は何気ない顔でそう言うと割れた二つのマグカップを片付け始めた。
「後で新しいの買いに行こ」
そう言う藍佑の表情は、マグカップに注がれていて読めなかった。
ボクも、どういう事を思っていいのか分からなかった。
しかしわざとマグカップを割ったのには流石に、危ないよと伝えた。
お題 「マグカップ」
出演 山吹 藍佑
6/16/2025, 6:18:39 AM