木綿

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わたしに花をくれたのは、あなたがはじめてだった。

幼稚園の帰り道、道端に咲く花が帰宅したテーブルに置いてあった。

うれしかった。
ただ、ただ言葉に出来なかった。

中学生になったあなたは、私に似合うだろうとほんのりと色づく、オレンジのリップクリームを買ってきた。
絶対似合うと思って、とか、かっこいい綺麗なの目指してるって言ってたから、とわくわくするあなたに、気づいたら微笑んでいた。
なめらかに、薄い唇をなぞったリップクリームは。
私の一番の色になった。
いいねこれすごく、と言う私に、満足気に息子は笑った。
これは私の、幸せの色だ。
永遠に私を導く、女神の後光だ。

「言葉はいらない、ただ……」

8/29/2023, 12:36:10 PM