yukopi

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あるところに自慢が大変に大好きな指がいた。
連日連夜自分たちの自慢を何度も何度も繰り返しても、全く飽きは来ず、寧ろ5本の指の中で、自分が如何に必要な存在なのかを連日連夜日中問わずとも、言い聞かせるのである。指たちはそれが生き甲斐でもあった。


今日も今日とて、自慢ばかりする親指がこう言った。
「オレはいつも使われている指だ。オレが1番なのさ」
すると隣で聞いていた人差し指が、親指を指してこう言った。
「ちがうわぃね、あたしの方が役に立ってるさね。いろんなものを指し示して表現するのに」
「やめろ、オレを指差すな」
「なぁに、それがあたしの役割さね」

すると、横で聞いていた中指が怪訝な顔をして言う。
「オイオイなんだ、仲間割れかい?あんたらよりもおれっちのほうが背が高いじゃねぇか。力もあんたらより強い。物を押さえつけたりするのに1番役に立ってる」

えっへん、と顔で表現するあたり、中指の主張はごもっともだと少し思うところがある親指と人差し指。
(だけど、まだうちらの指はある……)
そうして、3本の指は横に目をやると、4番目の薬指に注視した。
「ねぇ、今の話聞いてた…?お宅らはどうなのさ?」
人差し指が聞く。
薬指は、少しはにかみながら歯切れ悪くこう答えた。
「あはは……。私は別に大したことないよ…。あんまり私はみんなよりも使われることはないしね…」
そうして、小指も小さく答えた。
「そうだね、ボクらはあまり使えないかもしれない。ボクはみんなより体が小さいから」
その小さな体に比例した、か弱くしょげた声だった。

「ほらな!だったら少し自粛するべきじゃないか?お前らが働かなくてもお前らの分をオレがいればいい!」中指が主張した。
「そうさね、あたしらに任せなよ」と、賛同する人差し指。すると親指も、
「フン、使えない指は出番を控えるべきだな。そうだ君たち、次の体力テストは俺達にまかせたまえ。」
そう言ってまた自慢を繰り返す3本の指。

「そ、そうだね…じ、じゃあ任すとするよ…」
そう言って薬指と小指は、それ以降口を開くことはなかった。


数日して、体力テストの一環とし、握力測定が実施される事になった。
前回の数値は特に3本の指たちにとっても、毎日繰り広げる自分の自慢大会のネタとされる程、高成績だった。

『じゃあ、今回も良い点数期待してるぞ!』

握力測定器を握る。
3本の指たちは今日も自分の自慢大会の事しか頭になかった。
力を込める。…いつもなら測定器の針が思うように動くはず、だった。
……いつもなら。


…あれ…?
おかしい。いつもならここまでは針が動くはずなのに。
そんなはずはない…、と3本の指たちも、其々に力を込める。普段は軽い気持ちで動く針も、今回は不思議と重く、ギュッと顔を赤くしながら再び力を込める。
しかし、何故かいつもの力が入らない。


『なんだ、どうした?』
『うーん、なんだかいつもの力が出ないっす』


3本の指たちも首を傾げ、その中でも1番力が強いと自慢の中指は汗ばみながらも目一杯の力で頑張っていた。
力を込めるたびに、指と指の間隔がおかしくなり、汗が吹き出して、握った測定器が滑る。


『うーん、なんだか可笑しいンっすよねー。特に薬指と小指の感覚が…ねぇっす』


3本の指たちは、3本とも顔を見合わせた。

指たちの世界ではこんなことわざがある。
『優越感は、指をも殺す。』

優越感が強すぎると同属の指を滅ぼすことになりかねない、という意味を持つ。




お題: 優越感、劣等感

7/13/2024, 2:23:56 PM