夜。
ベッドの上で目を瞑る。
部屋の中は無音に包まれているけれども、耳を澄ますと窓の向こう、遠くのほうから微かに電車の音が聞こえる。
時折風に吹かれて揺れる木々の音が、やけに優しい。
今この瞬間、私を取り巻く世界は優しいものなのに、脳裏に響くのは自身の失態、僅かに失敗したなと反省した人間関係、理不尽なトラブル。
些細な失敗や反省すべきことは日々あるが、それでもおおよそ問題なく、友人がいて、趣味もあって、円滑な社会生活を送れている自分は恵まれているんだと思う。
それでも考えてしまう。
あの時別の選択をしていたら。今この勢いで別のことを始めたら。何もかも投げ出して誰も彼も見知らぬ土地に、この身ひとつで足を踏み入れることができたのなら。
ここではないどこかで、生きることができたのなら。
ちっぽけな私は、大胆で、それでいてやっぱりちっぽけな、できるはずもない夢物語を今日も瞼の裏に思い描く。
『ここではないどこか』
#19
6/27/2024, 2:20:21 PM