気まぐれ Noname

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《天女》

ふわり ふわり ふわり…

艶のある、淡い色の髪をふんわりと束ねている。
きめ細かく、滑らかな肌に、鮮やかな花が描かれている。
ぷっくりとした唇には、鮮やかな紅がさされている。

彼女は天から舞い降りてきた美優という名の天女。

うすもも色の透き通った羽衣を羽織って舞を踊っている。
彼女が動くたびに、なんとも言えぬ、良い香りが漂ってくる。

彼女は、天界からちょっとしたきっかけでこの世界に舞い降りてきたのだ。
そのきっかけというのが__________
石につまづいてこけた、ということだ。
故に彼女はとてもびっくりしている。
(今まで転けてもこんなことなかったのに)
実を言うと彼女はおっちょこちょいで、しょっちゅう転けていたのだ。

(とりあえず、この舞は完璧に決めなくちゃ。)

いつも、舞なんかできたってどうなるの?なんて思っていたが今回は違う。

(なんたってあれほどのイケメンがいるんだから、手を抜いてられないわ!)

ふふふ…と不気味な笑い声をたてる。

「ぁあっ!」

しまった…‼︎気を抜いてしまった。
どうしよう…転けたら痛いだろうな。
ちょうど階段の前だったから…

落ちていく。

ああ。死ぬんだ。


かあさま、とうさま、にいさま、ねえさま、ばあちゃん。


今までありがとう。


覚悟を決めて目を固く瞑る。

もうそろそろかな…




ふわっ




「え………??」

「大丈夫ですか?」


男の人の声がしたので、私は目を開けた。


そこには、あの、イケメン様のお顔が…


顔に血が集結していくのがよくわかる。

私はりんごじゃないわよ?
なんて変なことを考えながら、礼の言葉を口にする。  

「ぁりがと…」

思ったより小さな声が出た。

(おかしいな、恥ずかしくないはず…なのに)



どうしてこんなに心臓の音が大きいの?


「いえ、怪我をされては困りますので。それより大丈夫ですか?」

「はぃ…」

こんなにドキドキしたことない!

どうしちゃったんだろ…私……


「ふっ」

「へっ?」

イケメン様が突然笑ったのでびっくりしてしまった。





「そんなあなたも、可愛いですよ」

「っ…‼︎」


優しく彼は乱れた髪を耳にかけてくれる。


「ぁ…あの‼︎お、お名前は…?」

「名乗り忘れてましたね。私は、須賀宮綱縁です。以後お見知り置きを」

「あ、はい…」

綱縁さまっていうのね。
素敵な名だわ…。

「おっと、そろそろ行かなくては。では、また」



ほんと、どうしちゃったんだろ、わたし。


胸の鼓動がはやい。

病気…?


いや、




きっとこれが、かあさまの言ってた









なんだわ。


お題 胸の鼓動

9/8/2024, 1:17:54 PM