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気だるい午後の授業中。生ぬるい教室の空気を、扇風機がぐるぐる掻き回す。そんな何気ない日の事。
突如、鐘の音が響いた。チャイムとは違う、まるで教会にある大きな鐘が鳴ったような音。
クラスはざわめき、何人かは辺りを見回す。
おかしい。まだ授業は途中な上、ここの近くには教会など、ましてや鐘を鳴らせるような施設は無い。

鐘の音は鳴り続けている。

誰かが悲鳴をあげた。
「空!!空が!!!」
その声に一同が窓を見る。
息を呑む声。
夏を象徴する空の青色はそこには無く、代わりに黄金色にまばゆく輝いた雲がどこまでも広がっていた。
聖書か何かでありそうな光景に、クラスメイトは呆然としている。

鐘の音は鳴り続けている。

「あ、あは、あははははは!!!」
突然、先生が笑い出す。
「終わりだ!!この世の終わりなんだぁあぁ!!」
あとはもう、理解できない事を叫びながら先生は教室の窓に手をかける。そうしてそのまま、その身体は重力に従って。
べちゃ
一連の出来事は、教室を混乱させるには十分すぎた。
阿鼻叫喚。
泣く者、怒る者、絶望する者、中には同じように発狂して飛び降りる者。

鐘の音は鳴り続けている。

そんな中、隣で少女がくつくつと笑っていた。
「世界の終わりみたいだね」
僕は思わず呟く。
すると少女はふと笑うのをやめ、
「終わるんだよ」
真面目な顔で僕を見つめた。
「いつか世界は終わる。それが今日だったってだけなのに、何をそんなに焦ってるんだろうね」
静かだ。この世界にはもう、僕らしか残っていないような、そんな気分になる。
「『天界の崩壊』
……起きちゃったんだから、しょうがないよね」
彼女はいつの間にか窓辺に移動していて、
「一緒に来る?」
そう言ってこちらに向かって手を伸ばす。

鐘の音は鳴り続けている。

僕は、彼女の手を取った。
「行こうか」
彼女の言葉を最後に、意識を失う。
目を閉じるその寸前、彼女の背中に白い羽根が見えた気がした。

8/6/2023, 5:18:55 AM