新しい名前

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大好きな父だった。父の、大きな大きな手のひらで、
力いっぱいに抱きしめてくれるのが大好きだった。

私の父はよく親しまれていた。近所どころではない。
国民に愛されていた。父は国民的俳優だった。


私は知らなかった。戸籍上、父はまだ未婚で、
子どもがいないことを。

私が荒れに荒れ狂った末、
耐え切れなくなった母が話した。

父にとって私の存在は障害になるらしい。
その言葉を吐いたのは、父でも、母でも無く、
父のマネージャーらしかった。

父は、最終的にその意見を飲んだ。
最初に意見を出したのが誰であれ、
最後に決めたのは父だ。

父は私を捨てた。


もう幼い頃の気持ちのまま、
テレビに写り続ける父を見ることは出来ない。

嫌でも耳に入ってくるおばさんの話し声の中で、
父がまた、賞を受賞したらしい。

あの頃の父が遠のいてゆく。
そのまま何処へでも行ってしまえばいい。

父は負けてしまった。己の承認欲求に。

家族よりも名声を取った。

あの人は負けてしまったのだ。
負けてしまった彼の手は、もう届かない。


/遠く…

2/8/2025, 1:58:54 PM