今夜の月からは、探しても探しても欠けたところを一片も見つけられない。満月だから、当然といえば当然だが……。
どこともしれない場所に一人立って、女は神秘性を兼ね備えた月の美しさにもはや殺意すら抱きつつあった。
睨むように見上げていた女の背後に、ふと声がかかる。低くも艶のある独特な声。
「女にもなれねえ女が、月なんか見上げていっちょ前に浸ってらあ」
滑稽極まりない、と心の底から思っているのが分かる響きだ。
どうやら男は気分がいいらしい。相手にするのが本気で嫌になる。女は見えないように溜め息をついた。
「月なんか見てないです」
「ああ?」
「空の流れを見てました。明日は晴れますね」
余裕の笑みを崩さなかった男が、ここで初めて苦い顔をした。
男の気に入る回答ではなかったらしい。が、知ったことではない。
2/21/2025, 2:37:33 PM