夢で見た話

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数ヶ月前に拾った女芸人は城内の者たちにもよく馴染んだ。一国の城主相手に真っ向、契約書による制約なぞ求めてきた面白いやつだ。弁が立ち、化粧や衣装で姿もくるくる変えて見せるので実に楽しい。

『あれを奥に迎えるとしたら何とする?』

室の膝へ寝転びながら問うてみると、随分お気に召したのですね、とはぐらかされた。澄まして見せておるが、平素と違い視線は合わない。拗ねておる。
美しい面を下から見つめていれば、暫くして、微かな吐息とともに言葉が降ってきた。
―――殿のお望みとあらば、不自由はさせません、と。

…愛いやつめ。儂があれに情がある訳無かろうが。
そもそも奥の事はそなたの領分、儂一人の望みをごり押すことでもない。

指で頬を撫で、あやしてやる。黒く大きな瞳が睫毛の影を落として此方を見た。戸惑いと悲しみが溜息に乗って届く。
そう剥れるな。儂が側室にと口にした時、あやつが何と言ったか教えてやろう。

『あのお美しい御方様から目移りするような殿方は御免被ると、けんもほろろであったわ。』

まあ、と室は複雑な顔をした。…が、儂が笑えば揃ってくつくつと笑い出す。
よしよし、それで良い。そもそもあれを留め置くのは、そなたを笑わせるためよ。儂が口説けと命じた男が、殊の外手こずっておるゆえな。
ならば私が口説きましょうかと、悪戯な微笑みで室が言う。
少年の姿で側に置いたら楽しそうです、などと言い出したゆえ苦笑した。ことに依っては浮気であろう?

『儂を裏切れば死ぞ。』

室は愉快そうに、まあ怖い、とまた笑った。


【もう一つの物語】

10/29/2023, 2:19:06 PM