美佐野

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(心の迷路)(二次創作)

 今、牧場主は最大の岐路に立たされていた。
(ヘイリーとエリオット、選べない)
 ペリカン村の端にある広い荒れ地を耕して、いっぱしの牧場を作り上げた。公民館に棲みつく不思議な生き物ジュニモたちの頼みを訊き、様々な農作物や畜産の副産物を集めた。時には鉱山に潜り鉱石を集めては道具をアップグレードし、またある時は谷のあちこちの釣り場を走り回っては釣竿を振った。
そんな忙しい日々の中で、牧場主がないがしろにしたのは谷の住民たちとの触れ合いだった。
 そう、誰とだって深い関係にならずに、ただ会えば挨拶をする程度で積極的に自分からは動かなかったのだ。ただ、収穫したものの出荷箱に入れそびれていたヒマワリ(リュックからはみ出していた)を見かけたヘイリーがそれを欲しがったり、海岸で日がな釣り糸を垂らしている自分にエリオットが興味を持ったりしただけなのだ。
 花束を持って二人がちょうど同じタイミングに牧場にやってきたのが今朝の出来事。
 ヘイリーもエリオットも、まさか自分以外に牧場主と懇ろな人物がいるとは思わなかったようだ。だが、お互いに一通り驚いた後、牧場主がどっちを選んでも恨みっこなしだと固い約束を交わした。
 かくして窮地に立たされた牧場主が絞り出した言葉は、
――1日待ってくれ。
というもの。
 結果、明日の朝までにどちらか選んで返事をする。もしくは、どちらも選ばない、もアリだろう。だがどちらも選ぶ、はナシだと例の二人が瞳で語っていた。こんな難しい問いは生まれて初めてだ。自分の心の奥底まで潜ってみても、どっちも同じぐらい魅力的で、どっちも欠点らしいものはない。
(どっちも選ばない?)
 せっかく唯一に近い親しい存在と疎遠になるのも困る。時刻はいつの間にか夜20時。靴を飛ばして表か裏かで決めるかと試みれば3回とも側面。
「終わりだー」
 絶望の夜はまだ明けない。

11/13/2025, 10:07:44 AM