ひとりブランコを漕ぐ僕の足元にボールが転がってきた。
少し離れたところから聞こえる、僕と同い年くらいの子達の声に弾かれるように僕はボールを手に取った。
渡してあげようと、ブランコから降りてこちらに走り寄ってきた彼らに近づく。
「これ…」
僕はボールを差し出す。
僕を視認できるところまで来た子供たちは、すぐに顔を青くした。
「おい、あいつだ!」
「うわぁ!また襲われるぞ!」
「バケモノ!」
渡そうとしたボールは行き場を失い、僕のちいさな体に収まった。
バケモノ、と呼ばれることにはずっと慣れていた。
僕には他の人たちとは違う、おかしな力があるから。
僕が彼らに手を伸ばせば、辺りの小石が浮き上がり、彼らを襲う。
さらに叫べば強風が渦巻き彼らの体を持ち上げる。
僕の力は、人を傷つけてしまう。
ひとりには慣れっこだけど、やっぱりさみしい。
ボールを抱えたまま、僕は再びブランコに戻った。
ブランコに座り、うずくまっていると頭上から声がかかった。
「きみ、友達と遊ばないの?」
遊んでくれる友達ができるならどんなにいいだろう。
少し頬を膨らませて顔を上げると、僕よりずっと背の高い、きれいなお姉さんが立っていた。
「僕はバケモノだから、友達なんてできないよ。」
「ふぅん。まぁ、でも友達を作ることが全てじゃないよ。」
ふふ、とお姉さんは笑い、僕の隣のブランコに座った。
大人のお姉さんは友達なんていなくても、ひとりで生きていけるのかな。
僕は友達がほしいけど。
でも、笑ったお姉さんはとてもさみしそうに見えたから、僕は何も言わない。
「バケモノ、か…」
「うん。僕には変な力があるから、この里の大人も子どもたちも僕のことをバケモノって呼ぶんだ。」
空をぼんやりと見ていたお姉さんが、僕を見た。
僕は驚いた。
僕のことをこんなに優しくて、さみしそうに見る人は今までいなかったから。
お姉さんは、僕を見つめたまま静かに口を開いた。
「じゃあ、きみは私と一緒だね。」
そう言ったお姉さんの黒くて大きな目が、一瞬真っ赤に染まった気がした。
どうして、と聞き返す前に、お姉さんはスッと立ち上がった。
ふふ、とお姉さんはまた笑い、僕を振り返る。
「きみが大人になった時に、また会いにくるよ。
きっとその時は、きみは私のことをバケモノだと怖がるかもしれないね。」
お姉さんの大きな手が、僕の頭をくしゃっと撫でた。
ふわりと踵を返し、お姉さんは去っていく。
僕が大人になれば、お姉さんがバケモノであるという秘密を知ることができる、という意味だろう。
生まれて初めて、他人に怖がられずに話すことができた。
人の温かさを知ったのも初めてだった。
バケモノ、と罵られるよりも、お姉さんとまた会える日がずっと先になることのほうがずっと、かなしかった。
2/3 やさしくしないで
2/3/2025, 10:38:17 AM