ストック1

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昼寝から中途半端に目覚め、寝ぼけていると、なにやらありえない音が耳に入った
君の声がする
どうやら、まだ半分夢を見ているようだ
君はもうどこにもいないというのに
いや、君なんて存在は初めからいなかったのだが

よく覚えていないが、僕は昔、ある施設の非人道的な実験の被験者だったらしい
救い出されたはいいものの、実験のせいで存在しない子が見えるようになっていた
僕はその子がいると思っていたので、一緒に遊んでいたのだが、周りにはもちろん見えない
結局、僕を心配した人たちは、僕の幻覚を治してしまったのだ
最初のうちは泣いていた僕だったが、なんとか現実を受け入れ、前を向いて今に至る

だから君がいるはずがない
それとも、吹っ切れたはずだが、僕の懐かしく思う心が、再び幻を出現させたのだろうか?
頭がはっきりしてくる
それでも君の声はやまない
ゆっくりと目を開ける
あの頃より、少し成長した君がいた
やはり幻覚が復活してしまったようだ

「おはよう」

とりあえず、挨拶をしておこう
少し、会話を楽しむのも悪くない

「久しぶりだね」

正直、嬉しい気持ちが強い
また君に会えるとは思わなかったから
この幻覚がいつまで続くかわからないけど

「私は幻じゃないよ?
三年前までは、幻だったけど」

だったらいいんだけど、現実は非情なんだよね
君は僕の幻覚上の存在だよ

「なんで、また僕の前に現れてくれたのかな?
そのあたりを教えてほしいな」

これは自分で自分に聞くようなものなので、まともな答えが返ってくるとは思えない
とはいえ、一応気になったので聞いてみた

「私もよくわかってないんだ
私がわかっていることを話すと、実験であなたの幻覚症状が始まったけど、それが実験の目的じゃなくてね
その先があったみたい」

どんな効果を期待したのだろう?

「自分が見た幻覚に強い愛着を持った人が、その存在を現実のものにする能力の獲得、だよ」

聞いた瞬間、世界がひっくり返ったような、奇妙な感覚になった
その話が本当なら、まさか君は

「本当に、存在しているのか?」

「うん、そう言ってるでしょ?」

にこやかに、軽く、重大なことを言っている
だが、疑念は拭えていない
それも含めて、僕の願望が生み出した幻覚かもしれない
だが直後の出来事で、僕の疑念は確信によってとどめを刺される

「誰だ、君は?」

僕が現在、世話になっている施設の職員の人が、幻覚を視認した
僕以外に見えるということは……
自分の顔は見えないが、僕はたぶん今、目を見開いて笑っている

「君は、現実の存在になったのか」

「うん!」


施設の人たちは、僕の説明に納得してくれて、一緒に施設に住めることになった
それにしても、現実の存在としての君に会えるとは思っていなかった
でも、僕を使って実験した人たちは、何を目指していたのだろう?
少しだけ気にはなるけど、そんなことはどうでもいいか
僕にとって大事なのは、君という友達と再会できて、また一緒に話したり、遊べるという事実なのだから

2/15/2025, 11:14:50 AM