【半袖】
半袖太郎
いつの時代にもどうしようもない奴といつのは必ずいるもので、あるお江戸の街にも遊んでばかり飲んでばかりの与太郎ではございましたが、とうとう金も底を尽き、親父さんにも「てめぇ、いい加減働け」と怒鳴られ、渋々奉公にでてきたものがございました。
追い出されちまったもんに文句を言おうがしょうがねぇ。呉服屋で住み込みで働き、師匠に弟子入りし、仕立て屋としての修行を始めたのでありました。奴さん、いままで針仕事なんぞ細けぇ仕事なんぞしたことございやせんから、やれ針で指を指しただの、やれ糸が通らんなどと毎日騒がしいもんでございました。
しかし、そんな与太郎も毎日やっていればある程度慣れてくるもんで、手ぬぐいに始まり、襦袢、襟、帯なんかもある程度縫えるようになっておりました。与太郎には丁稚としての仕事もありまして、今までは、着て来た着物では流石にみすぼらしいと、お店から着物を借りておりましたが、師匠も与太郎の腕を見込み、「おめぇさん、自分の着物、いっちょ縫ってみるかい?」と言い出したことで、与太郎は初めて着物を縫うことになったのでございます。いくら師匠教えがあれども、着物なんぞ縫うのは初めてですから、前身頃がやたらでかかったり、背中心がズレていたり、袖が長かったりとてんてこ舞いでございやした。
やっとこさ縫い終わり、完成した着物を着てみると…なんと袖が半分ほどしかございやせん。
「師匠、袖がやけに短ぇんですが」
「おや、お前さん、教本通りに裁っちまったのかい?
おめぇさんガタイがいいから、ちょいと足らなかったみたいだねぇ。ややっ、これでは与太郎ではなく半袖太郎だねぇ」
奴さんもこれ以上縫うのはごめんだと思い、半袖の着物のまま仕事を始めました。
亭主や番頭からはやんや言われたものの、客からは面白いと評判になり、半袖太郎として、名を馳せたのでした。
7/25/2025, 3:06:59 PM