ただの社畜

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「ロディ。お待たせ、行きましょうか」
「ロディさん。おはようございます」

いつもの待ち合わせ場所にあらわれたのは、整った容姿をしたそっくりな双子だった。

「ううん。待ってないよ、おはよう」
いつもと調子を変えないように気をつけながら挨拶をかわす。
目敏いサンドラに少し怪訝な目線を向けてくるが、にこりと笑ってかわす。
ジェシカは、、、まぁ僕に興味ないので少しも気に留めている様子が無かった。
しいというなら、僕を怪しんでいるサンドラを気にかけているようにも見えた。

僕の前でいつものように仲良く戯れ合っている2人を見下ろしながら連日見ている悪夢を思い出す。

満足そうに笑いながら冷たくなっていくサンドラ
全身を片割れの血で染め上げ呆然としているジェシカ
そんな2人に何もできず駆け寄ることもできない僕
この状況を見てもなお勝ったことを馬鹿みたいに喜ぶ白陣営たち。

夢にしてはリアルで。でも現実にしてはあまりに荒唐無稽な出来事。
不気味な屋敷に数日間閉じ込められ、突然役職を振り分けられ、勝てないと死ぬというデスゲーム。

あぁ。思い出すだけで吐き気をもよおす。
嫌いだ。嫌いだ。人間が嫌いだ。
本性を隠す人間が嫌いだ。

「…ロディ?大丈夫?」

声をかけられたことに気づきハッと顔を上げると目の前にサンドラの顔があった。

っちっかいっっっ。思わず顔をのけ反らせ視線ごと逸らす。

「っねぇ。ジェシカ!君のお姉様距離感どうなってるの??」
「えぇ?私のお姉様に文句あるんですの?」
「ロディが隠し事してるからだよ?ずっとぼーってしてるし!」

寝不足の頭ではいつものように思考が纏まらずサンドラのチクチクに反射で反論できない。
じとっと目で「やめろ」と抵抗しているとまた、遠くの方から元気な声が聞こえた。

「おーーーーーい!おはよう!!いやーみんなはやいねっ!」

「エマ遅い。早くしないとおくれちゃう!」
「エマさん、おはようございます。」
「あのねあのね!あたしね、パン買ってきたの!!
 並ばないと買えないやつなんだよ?
 すごいでしょー!選んでいいよ!!」

いつものエマを見て落ち着いたはずの動悸がまた一気におかしくなる。
呼吸がままならない。
視界がぼやける。
意識が遠のく。
思考が纏まらない。
自分の煩い心音以外何も聞こえない。
苦しい。苦しい。助けて。嫌だ。たすけっ

「っ!」

呼吸が荒れ、過呼吸状態になっている口を塞いだのはサンドラの口だった。

「!!!!???!!?!?!?////」

「ちょっ。ちょっ、お姉様!?きt。…汚いですわよ!」
「はえー!やっと付き合えたんだ!ロディ?」

っ!?!?
ちがっ。え??
なんで?まだ付き合ってないのにキッ。キスなんて!

理解が追いつかないのと、恥ずかしさと、息苦しさで、生理的に涙が止まらない。

「っプハ!本で読んだの。過呼吸を手っ取り早く過呼吸を止める方法!」

ドヤ顔で誇るサンドラに思わず涙目で睨んでしまう。

…こっちがいったいどんな気持ちを君に向けているのか分からせてやろうか? 

何か思うことがあるのか、察したエマがニコニコと笑いながら隣に近づいてきた。

「あのね、ロディ。2人で話せない?」
「……。いいよ、場所少し離れようか。
 ごめん、サンドラ、ジェシカ。ちょっと先に行ってて!」

「? 分かった。早く追いついてね」
「お姉様、行きましょー!」

さっきのキスもそうだし、エマと2人きりになるのにも微塵も気に留めていめていないサンドラを見て、やっぱり、まだ脈なしか〜と落ち込む。

「っと。このあたりでいいかな?
 なあに?エマ」

「あのね。違ったらごめんね。
 ロディはさ、最近怖い夢を見ない?
 殺し合いみたいな?騙し合いみたいな」

これは、驚いた。まさかあの悪夢を見ている人が僕の他にもいるなんて。
でも、意図が分からないし、なぜ気づいたのかも分からない。
言葉を続けようか迷っているエマに、表情だけで先を促す。

「…。私はね最近ずっと夢に出てくるんだ。
 怖いよ。現実で起こったわけないのに、ヤケに鮮明に見えるの。
 今日、パン買ってきたのもね、、誰かあの夢を見た人いないかなーって思って。…ごめんね。あそこまでなるとは思わなかった」

心から申し訳なさそうにしているエマをみて、本当に同じような共有している人がいるんだと実感した。

「…あの反応を見る限り、あの2人はやっぱり覚えてなさそうだな、、ま、覚えていない方がいいんだけど。
特にジェシカの方は、、」

きっともう立ち直れない。

「うん。私もそう思う。だから今回が最後の賭けだったの。夢で会ったことのある人にあう約束を取り付けてこのパン作戦やったんだけど、反応したのはロディだけだった。誰も反応しなかったら、私の気のせいで片付けようと思ってたんだけど、、ねぇロディ。あれは本当に夢。だよね?」

夢。…だと断言したい。あんなものを本当に起こったなんて認めたくないし、信じたくもない。

でも。断言できないほどリアルで。
ここに同じ体験をした人がいて。
悪夢で会った人たちが本当に存在していて。

「ねぇ。エマ。僕は君が好きだよ。」
「はぇ?」

「それでね、サンドラが好き。ジェシカも好き。
 でもあんな夢を見てから人間がすごく嫌いになった。
 人と関わるのがすごく怖くなった。
 でもね、少なくとも君たちは最後まで嘘をつかなかった。
 人を貶めようとしないかった。
 最小限の被害で。みんなで屋敷を出ようとしてた。
 少なくとも僕目線はそう見えた。」

横目でエマを見ると静かに頷き先を促してくれた。

「最終日。あの屋敷から出られたあの日。
 ジェシカが狼に食べられた夜の次の朝。
 サンドラはあからさまに態度がおかしかった。
 最初は大切な双子が亡くなってしまったから動揺しているだけだと思った。
 でも、明らかに破綻の連続だった。喋れば喋るほど破綻してた。
 それはもう。笑っちゃうくらい破綻してた。
 多分本人も何言ってんのか分かってなかったんじない?」

重い話になりそうだから、わざと明るい口調に変えてみたが、声が震える。多分、ここが外じゃなかったら涙は堪えきれてなかっただろう。

エマも静かに涙を流しながら聞いてくれる。

はは。エマらしくない。いつも能天気なくせに。
空気読めてないような的外れなこと言うくせに。
…いや、違うか。こう見えてエマは周りはみえていた。
アホキャラというものを率先してやっていた。
あの屋敷でも。…まぁ、ほとんど素なんだろうけど。

「それで、嬉々とした白陣営たちが時短でサンドラ吊ったじゃん?
 僕ね。何もできなかった。サンドラともジェシカとも沢山話したのに。サンドラが狼ならジェシカは絶対食べないって断言できたのに。何も言えなかった。
 あの空気に呑まれて、発言も反論も投票すらなにもできなかった。
 最後にね。本当に最後にね、サンドラちょっと笑ったんだ。
 んで、サンドラの死体からジェシカがでてきてもう大騒ぎよ。
 サンドラの血で真っ赤に染まったジェシカが呆然とサンドラを見てるんだ。
 泣きもしないで、喋りもしないで。
 ただ心底驚いたように見つめていた。
 僕ね。実は役職イタコだったんだ。知ってる?イタコの役割。
 死んだ人の役職を見れるんだって。
 1回だけね。
 僕はずっと使ってなかったからせめてと思ってジェシカを迎えに行くついでに見たんだ。
 サンドラの役職見たんだ。
 …市民だって。呪われだって。人狼だって。
 あはは。笑えるよね。
 ジェシカに聞いたんだ。サンドラは君の役職を知ってたのかって。
 静かに首を振ってたよ。知らなかったんだって。
 でもね、サンドラは多分気づいてたんじゃないかなって思うんだ。
 あそこでジェシカが食べられてないとその日吊られてたのはジェシカだ。
 最後の最後まであの子はジェシカを守ったんだ。
 自分が狼にされて混乱してたはずなのに、、」

うん。うん。とエマも涙を隠さず溢す。
僕ももう堪え切らず大量の涙を溢していた。

「ねぇ、エマ。あれは忘れちゃダメだと思うんだ。
 少なくとも覚えている僕たちだけは。
 それだけ。聞いてくれてありがとう。
 本当にスッキリした。」

「うん!!あたしも!沢山泣いてスッキリした!
 ま、あたしパン焼いてただけだけどね!!
 さ、早く2人のところ行こ!追いつかないと!」

パッと立ち上がり駆け出すエマの後ろ姿を見て、思わず笑ってしまう。

本当に忙しない子。でもエマのおかげであの屋敷でも正気を保っていられたよ。
夢の中のロディ。大丈夫もう苦しまない。
もう忘れようとしない。無かったことにしない。

もうやるせない気持ちなんてない。

「エマ!ほらもっと走って!!置いていかれるよ!」


お題「やるせない気持ち」
ロディ視点
配役⤵︎
サンドラ:呪われし者(覚醒済み)
ジェシカ:赤ずきん
ロディ :イタコ
エマ  :パン屋

8/24/2024, 4:08:18 PM