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「明日、もし晴れたら」

フロントガラスを雨が打ちつける。もう勘弁してくれ。家の中は洗濯物でいっぱいで、雨の嫌いな妻はご機嫌斜めだ。

恋人だった頃はもっとやさしかったのにな。二人で一緒にいるだけで幸せだったのに、欲張りになったものだ。妻が笑わないのは雨のせいだけじゃない。わかってる。

このところ残業続きでまともに顔も見ていない。先週の休みもつきあいでつぶれた。今朝も少しすれ違うだけだった。明日の休みは仕事の予定はない。妻を思いっきり甘やかそう。

ぐっすり眠る妻の隣に起こさないようにすべりこんだ。規則的に肩が上下に動く。後ろから抱きしめたいのを我慢して眠りにつく。明日、もし晴れたら…

窓の外の小鳥の声、カーテンの隙間からもれる光。ああ、晴れたんだ。

ん?なんだ?頬、耳、鼻、くすぐったい。でも眠くて目を開けられない。腕を伸ばしてつかまえた。腕の中に閉じ込めるともぞもぞと後ろ向きになった。そうか、昨日あのまま抱きしめればよかったんだ。

また意識が遠のく。次に目を覚ましたらどうしようか。

8/2/2024, 6:10:38 AM