夜雨と春歌

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【誇らしさ】



 自信とかいうやつは、昔は持っていた覚えがあるけれど、ボコボコに打ちのめされて今や見る影もない。
 価値など、とうの昔に暴落した。
 そのくせ何の根拠もないプライドだけは高くて、自分以外の人間は全員頭が悪いと思っているくせに、その人達より優れた部分なんて自分の中にひとつもなくて、心と名前のついているだろう場所が馬鹿みたいに重くなってそのままどこまでも沈んでいきそうになる。
 世界に小さく小さくなった自分の塵ひとつ残さず消滅してしまいたいけれど、生きてきて何ひとつ遺せない自分が虚しくて哀しい。
 夜雨は、自分のことはよくわかっている。どれだけつまらない人間であるのか、日々実感しながら過ごしている。

 それなのに。
 春歌は夜雨を見つけた途端、咲くように笑って駆け寄って来たりするから。
 その瞬間だけは、自分がとてつもなく素晴らしい人間だった気がして、誇らしさすら感じてしまって。
 苦しい。

8/16/2023, 7:17:53 PM