手の中に収まるほどの小さな木箱の表面を撫でる。
冷たさも温もりも感じない。指先に触れるつるりとした感触に、無意識に眉が寄った。
木箱の蓋は開かない。継ぎ目さえ分からないほどぴたりと閉じた箱には、唯一側面に小さな穴が開いていた。
螺子を巻くための穴だ。爪先で穴の縁をなぞり、首に下げている螺子を手に取る。いつものように穴に差し入れ、ゆっくりと巻き出した。
一日に一度、螺子を巻く。
生きていくために必要なこと。螺子を巻かなければ箱の中身が止まってしまうと、誰に教えられるでもなく理解していた。
――かちり、かちり。
螺子が巻かれていくにつれ、体が重くなっていくような感じを覚える。
――かちり、かち。
瞼が重い。目を閉じれば立っているのか、それとも横になっているのかも曖昧になっていく。
――とく、とくり。
手の中で、木箱が微かに振動する。仄かな熱が、手から全身に伝わってくる。
不意に木箱の感覚が消えた。どこに行ったのか、目を閉じている今確かめようもない。
木箱を失い、腕がだらりと垂れ下がる。体が重い。意識が沈んでいく。
落ちていく感覚に身を委ねながら、また木箱の中身を確かめられなかったことを悔やんだ。
3/28/2026, 8:46:55 PM