何度、彼女を見つけただろう。
彼女はいつも、蕩けるような笑みを浮かべていた。
僕が探しに行くでもなく、ただ偶然見かけて、勝手に運命だなんて名付けて。声をかけるでもなく、ただ一呼吸分の時間だけ彼女を見つめた。
惹かれていた。惹かれていたからこそ声など掛けられる筈もなかった。僕のようなものが関わって良いひとではないのだ。
春の風が似合う彼女は、夏の雲で飾られて、秋の紅葉に目を細め、冬の白き道へと消えて行く。
何度、彼女を見つけただろう。
あぁ、縁も目線も交わらぬ僕はあなたと言葉を交わすことはないだろう。
これからも、僕は彼女を何度も一呼吸分だけ盗み見る。
浅ましく、何も無い僕にはこれで十分だった。
彼女が、彼とエンゲージリングを付けた指を絡めて寄り添っていた。秋の初め、彼女はやはり蕩けるような笑みを浮かべて彼を見つめていた。
一呼吸分というには随分とその光景を眺めすぎていたからか、それとも。
すい、とその目が僕と合う。
その時、もう見つけては駄目なんだ。何か僕の中のものが失われた気がして、どこか納得してしまった。
巡り会えたら。
巡り会えていたら、巡り会うことを望んでいたのならば。
彼女の視界に留まった一呼吸分の時間が、僕の運命の最後だった。
10/3/2023, 7:12:38 PM