パーティ全滅勇者

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“恋” (テーマ:バカみたい)

昔むかし、何百年も昔のこと。

ある人里離れた丘に、それはそれは人間では到底辿り着けない程の高い場所に洞窟があった。そこには1匹のドラゴンが住んでいたそうだ。
ドラゴンはある日考えた。人間が住む世界はどんな所なのだろうか。人間はどのように生活し、何を食べて生きているのだろうかと。
ドラゴンは人間が自分を倒しに丘に来ていることは知っていた。だが人間はドラゴンの住処には辿り着けず断念していったのだ。ドラゴンは思った。何故自分は悪のように扱われているのだろう。人里には決して近づかず、ひっそりと暮らしてきたのに。ドラゴンは不思議でならなかった。

ある朝、ドラゴンは森へ狩りに出かけた。野ウサギや、野鳥を狩って食べて生活していたから。ドラゴンはいつものように森を散策していると、後ろから足音が近づいきた。後ろを振り向いた瞬間、そこには見たことのないほどの可憐な少女が立っていた。栗色のショートボブ、青空の色を映したような真っ青な瞳。今にも消え入りそうな儚い肌の少女だった。

ドラゴンは初めて間近で見た人間に興味が湧いた。
それと同時に、胸が熱くなり苦しくなった。初めての経験だった。少女はドラゴンを恐れる素振りもなく、「あなたがドラゴンね。凄いわ、なんて神秘的なの。」と目を輝かせた。ドラゴンは嬉しかった。初めて邪険にされず、好意的に見られたからだ。
ドラゴンは「私が怖くないのか。」と尋ねた。少女はまたもや、「あなた、喋れるのね!凄いわ!!」と目を一層に輝かせドラゴンを見つめた。
ドラゴンと少女が打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
少女は自分の名は“ハンナ”だとドラゴンへ教えた。「あなたの名は?」とハンナはドラゴンへ問いかけると、「私には名など無い。」とこたえた。ハンナは「それなら私が付けてあげるわ!そうね、あなたの体は黒くて闇の様だからダークね!!」と。そして、「私は闇が好きよ。全てを包み隠してくれるから。」とドラゴンへ優しい眼差しを向けた。
ドラゴンは気恥ずかしくなった。それと同時に、心がじんわりと温かくなったのだ。
ハンナは毎日ドラゴンの住処の麓まで遊びに来た。人間の食料にドラゴンが興味を持っていたと聞き、パンや果物そしてお菓子を持って。あくる日も、そのまたあくる日もハンナはドラゴンに会いに行った。
ドラゴンはたまらなく嬉しかった。そして自分に優しくしてくれるハンナを愛していった。

それから季節は巡り、出会って1年が経とうとした日。毎日欠かさず会いに来ていたハンナが待てど暮らせど来なかったのだ。
ドラゴンは胸騒ぎをおぼえた。不安になり森の上を飛び立った。
すると森を出た人里に近い見通しの良い場所でハンナを見つけた。大人たちに囲まれ、1人恐怖に慄いていたのだ。ドラゴンは真っ先にハンナの元へ降り立った。ドラゴンを見つけたハンナが「ダメ!!ダメよ、ダーク!!降りてきてはいけないわ!!あなたの身が危ない!!」と叫んだ。その瞬間、四方八方からドラゴンに向けて弓が飛んできたのだ。ハンナが討伐できずにいるドラゴンと親しく会っていると知られたのだ。そしてハンナを餌に誘き寄せようという魂胆だった。
ドラゴンは痛みが全身に降り注ぎ、苦痛で叫んだ。
ハンナは「お願い!!やめて!ダークは心優しいの。人間に危害は加えないわ!」と泣き叫んだ。
ハンナの悲痛な叫びは届かず、とうとうドラゴンは倒れた。ハンナ以外の人間は喜び、歓喜の声が轟いた。
ハンナは泣きながらドラゴンへ近づいた。
「ごめんなさい。こうなったのは全部私のせいよ。」とドラゴンの顔に手を伸ばし必死に声をかけた。
ドラゴンはぼやけていく視界の中、必死にハンナを捉えながら囁いた。「そんなことない。私は君に恋と言うものをしてしまったのだ。バカみたいだろう。こんな醜く恐れられた私を邪険にせず優しくしてくれた君を愛さずにはいられなかったのだ。1度愛してしまえば、愛されてしまえば簡単に忘れられることはできないんだ。」と。
ハンナは今にも力尽きそうなドラゴンに口付けをしながら、「私もよ。愛してる。愛しているわ。」と囁いた。ドラゴンはハンナからの愛の囁きと共にこの世を去った。

3/22/2024, 12:00:31 PM