Ryu

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実話。

夜勤の合間に一息入れようと職場を離れ、向かいのビルの裏口前にある自動販売機で缶コーヒーを買った。
ビルの壁に寄りかかってコーヒーを飲みながら、スマホを取り出し今日届いたメールをチェックする。

しばらく経った頃、スマホの画面に雨粒が落ちてきた。
雨か。
スマホの画面から目を離し、ふと顔を上げて、ぎょっとする。
いつのまにか、自分のすぐ横に一人の女性が立っていた。
自動販売機の明かりしか無いような場所で、顔は暗闇に紛れている。
上下、真っ黒な服を着ている事だけは分かった。

−なんだ、この人。なんで、こんな近くに−
深夜3時過ぎのこんな場所。
他に人気は無い。
−しかも、なんで−
その女性は、さっきからずっとビルの壁の方を向いて、立っているだけ。
スマホさえ持っていない。
顔はよく見えないが、ビルの壁を見つめているようにしか見えない。
壁からの距離は30cmほど。
−気味悪。これは離れた方がいい−
その間にも、雨は次第に強さを増してゆく。
−傘もささずに、いったいこの女性は−

意識してないような何気ない素振りで、そっとその場を離れた。
内心ホッとしながら道路を反対側に渡ったところで、どうしても気になって後ろを振り返る。

−やばい−

女がこっちを見ていた。
ビルの壁ではなく、こちらを向いて立っていた。
雨に濡れ、長い黒髪から雨を滴らせながら、こちらを見て…笑っていた。

3/31/2024, 9:14:21 AM