裏表のないカメレオン

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中肉中背の男子高校生が犬と睨み合っていた。すぐそばを車が通りすぎる。小型犬だがピンクの歯肉から突きでた牙は鋭い。高校生はおもわず後退る。彼は武器を持っていない。腕力もない。瞬発力もない。何も持っていないので、己の拳ひとつで闘わなければならなかった。どこかで自転車のベルが鳴った。小型犬が後ろ足で地面を蹴った。犬歯が太陽の光を反射する。白い毛並みをなびかせながら、直線を描いてくる。覚悟を決めた男子高校生は中腰になった。

「俺はゴールキーパーだ」

飛びかかってくる犬を止めようと決めたのだ。彼は両手で壁を作るみたいにしてそれを止めた。

「ありがとう。助けてくれて」

ランドセルを背負った少女が丁寧に頭をさげる。仰向けになった男子高校生は顔を覆った。さきほど犬は飼い主に連れられたところだ。

「泣いてるの」

少女は目にいっぱい涙をためていた。

「泣いてないよ」

彼は言った。
通りかかった自転車に目一杯ベルをならされるまで、そこから動くことができなかった。



3/17/2024, 4:35:29 PM