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【凍える指先】

「さむーい!」
雪遊ぶ寒いある日、君はなぜか手袋を忘れて赤くなった指先を温めるように息を吹きかける。
「こんな寒い日になんで手袋を忘れるかな?」
と、口をついた言葉にきっと睨みつけられる。
「アンタが朝急かすからでしょ!」
8:15、これ以上待つことは2人で遅刻をするということ。毎日迎えに行くこちらの苦労はどこへやら。
「じゃあ、明日から迎えに行かなくていい?」
そう聞くと、君は慌てて首をふり、激しく拒否する。
「じょーだん! 遅刻しちゃうじゃん」
ならもっと早く起きなよ、という言葉を飲み込んでため息をひとつ。言っていることが支離滅裂なのに気がついているのだろうか。
それにしても指先は本当に真っ赤で、見ているこっちの方が痛々しく見えてしまう。ちらりと周囲を見渡すと人もまばらな通りで、ここなら人目も気にしなくていいだろう。
「ち、ちょっと…!」
冷たく凍える指先を大きな手のひらに包んで、コートのポケットの中に入れる。
驚いたような声を無視しながらすたすたと歩いていくと、勢いは次第に萎んでいき、大人しく後ろについてくる。諦めたような顔は少し赤らんでいるようにも見えて、あまり効果はないのかと少し心配になる。
「まだ寒い?」
そう聞くと、
「熱い!」
と、また怒ったように怒鳴られて、じゃあどうすればいいのか悩んでしまう。
けれどその手が引き離されることは、結局学校に着くまでなく、すっかり暖まってしっとりとした手のひらは門扉を通り過ぎるのと同時に離された。
「情緒不安定?」
君にそう問いかければ、頭を軽く叩かれ、颯爽とげた箱の方へと駆けていく。
その意味に気づくのはいったいいつになるのやら。
子供の頃から一緒にいる幼なじみの恋というものは、ここまで鈍くなるものなのか。

もう全身が熱くなっていた。

12/10/2025, 12:15:06 AM