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『最悪』

 コイツはいつだって『最悪』を想定している。らしい。
「お前の『最悪』って、なに」
 テーブルの向かい側で頬杖をつきながら、棒状のチョコ菓子をポリポリと食べ進めているそいつに問う。
「えー、そうだなぁ。例えば今近くに隕石が落っこちてきて、中途半端にあたってこの建物が崩れてさ、閉じ込められてすっごい苦しんでね?そんで同じように苦しんでるお前が死ぬとこ見てから……、――死ぬ、とか」
 あんまりにも空想的な『最悪』に俺は半ば呆れてため息をついた。はぐらかされているだろう事は、さすがに分かる。ほんの少しの真意が混ぜ込まれていることには、気付かなかったことにした。
「そんなん、ないだろ」
「まーね」
 そう言いながらお詫びとばかりに差し出されたスティック状のチョコ菓子を俺はガリガリと齧る。一度溶けかかってもう一度固まったらしいそれは、最悪の歯触りがした。

6/6/2023, 4:18:45 PM